2-14 謎の会話

 ふたりから十分離れたらアトラクションに隠れるように進路変更

 園内をぐるっと大回り

 うまくふたりの座るベンチの背後を取ったわ


 さてさて、ふたりの様子は、っと

 うーん、お弁当にはまだ手をつけていないみたい

 もう、食べてくれないと「胃袋をつかめ」作戦が成立しないじゃない


 なんてことを考えながら無言のふたりを見ていたら

 やがてアルバート会長の方からゆっくりとしゃべり始めたの


「エド、君はどう思う」

「そうですね、ちょっと意外でした」

「……『意外』か。たしかに意外と言えば意外かもな。だがしかし、私はもしかすると、こうなることをわかっていたのかもしれない」

「わかっていた、と。それはやはり『あの方』の影が念頭にあったからでしょうか」

「そうだな」


 ん? ん?

 いきなりのっけから意味不明

 「意外」って何が? それから「あの方」ってだれ?


 頭の中にいくつもの「?」が飛び交う中、また会長が続けた


「ジャンは『あの方』に似ている。自らをりっする基準をしっかりと持ち、自分が『正しい』と思うことは相手がだれであろうと正しいと言う。さらには『間違っている』と思うことには間違っているとはっきり言ってのけるのだ。最初に出会ったときの私に対してそうだったようにな」


 その言葉にエドモンド副会長がうなづ


「私の時もそうでした。アルへの誘惑疑惑をきっぱりと否定したあの物言い。生徒会副会長たる私への敬意は保ちつつ、間違っていると思ったことは間違っていると言うあの様子」


 よくわからないけど、話のテーマはこの私みたいね


「ジャンは『あの方』に似ている。なれば、強い信念を持つ面だけではなく、周りの者を気遣きづかい、いたわるといった面が似ていても何の不思議もない。私が『もしかするとわかっていた』と言ったのはそういうことだ」


 どうやら今日の私がやたらとはしゃいでいるように見えたのが、これまでの私の言動からは「意外」ってことなのかな

 でも「あの方」ってだれなのよ


「でも驚きましたよ。まさかあれほどまで私たちふたりを率先して連れまわるなんて」

「まったくだな。初めての場所なのに、まるでどこに何があるのか、全部わかっているかのようだったな」


 そう言って会長はフフッと笑った


 ふう、さすがはアルバート会長ね

 あぶないあぶない

 私がここに来たことあるって、下手したらばれていたわね


 そうしたらエドモンド副会長がぽつりと言ったの


「やはりアル、あなたは『あの方』のことが忘れられないのですか」


 アルバート会長が返事をするまで少し間があいた


「正直に言うと自分でもよくわからない」


 会長が次を発するまで数秒の間があった


「私は第三王子として、将来は皆をひきいる立場になる。立場にふさわしくあるために、さまざまな優れた人たちの言動や思考を取り入れようとしてきた。父上はもとより、現役の将軍たち。はたまた伝説上の英雄に至るまで、その中で学園内で身近に接した『あの方』は私にとって第一に手本とすべき存在だった。ただ私の中に敬意とは別の感情があることも認めなければならない」


 なんか話が重くなってきたわね

 心なしかどこからか「ゴゴゴゴゴゴー」って音が響いてきたような気がしてきたわ

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