1-3 私は目立ちたくない①

 そうこうしているうちに教室に着いた

 教室の戸を開けると、中にいたクラスメートたちが、それまでおしゃべりに夢中だったのに、私の姿を見た途端に無言やらひそひそ声になった

 うわさが広まっているというのはどうやら本当らしいわね


「ほら、廊下側の窓を見てみろよ」


 私が席に着くや、マルセルが窓の方へあごをしゃくってみせた

 言われるままに目線を向ける。生徒が行き交うのが見えるけど、普段とそんなに変わっているようには……。うーん、若干人通りが多いかな


「あまり変わっているようには見えないけれど」

「おいおい、なに見てんだよ。教室の中を見ているやつが明らかに多いだろうが」


 ああ、たしかに


「しかもそいつらどこを見ている? みんなジャンのことを見ているんだぜ」

「いや、それはここから見ているからそう見えるだけなんじゃないのか」

「なに言っている。それにここは一年の教室だぜ。なのに連中の中に、どう見ても四、五年ってのが混じっているだろ。四、五年がわざわざ一年の教室に足を運んで中をのぞくってどういうわけだと思う? この教室にうわさの中心、ジャンがいるからに決まってんだろうが」


 ここまで言われると、いくら私でも認めざるを得ない

 どうやら間違いなさそう。あの渡り廊下での一件が、学園中にうわさとして広がっているんだ。この私が会長からの、この国の第三王子からの、“お誘い”を断った張本人だといううわさ


 目線を戻す。自然とため息が出る


「しかし参ったな」


 ホント参った。私これからどうすればいいの?


「僕は目立ちたくないんだけれどな」


 そう、私は目立ちたくない。それもすべて「BLをでるため」


 前世で『うるわしの君たちへ』をやり込んでいた私は、学園でBLイベントが発生しやすい場所はたいてい把握している

 あの会長との一件があった「下校時間をとっくに過ぎた渡り廊下」もそのひとつ


 あの時なぜ私があんな時間まで学園内に残っていたと思う?

 うっかりしてなんかじゃ決してない。学園内にいる限り、私にとって一分一秒がものすごく大事なの


 あの時私は、学園内の“ホットスポット”を順に巡っていたの

 しかも単に巡っていたわけじゃない

 それぞれの箇所を、「そこでBLイベントが発生する確率が高い時間」に巡っていたの

 まあ残念ながら、あの時は他の箇所は全滅だったんだけどね


 で、ほかで粘っていたせいで、最後の渡り廊下にたどり着くのが予定より遅れたの

 私が「早く寮に帰らなきゃ」と思っていたのはそのため

 でもまあ、そのおかげで、初めてBLを生で見れた上に、アルバート第三王子と遭遇するというおまけまでついてきた

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