1-2 なんで私が有名人?

 話を元に戻さなくっちゃ


 そういうことで、周りから注目される覚えもないし、首をひねりながら歩いていたら、後ろから肩をたたいてくるやつがいたの


「よっ、おはよう。ジャン」

「なんだ、マルセルか。びっくりさせるなよ」


 そいつはクラスメートのマルセル

 クラスで最初に座った席が隣だったのでよく話すようになったの

 男爵家の長男


 そんなマルセルが突然、驚くようなことを言い出したの


「どうだい。早速有名人になった気分は」

「ええっ? 僕が有名人? なんで?」

「おやおや、とぼけちゃって。もう学園中のうわさになっているぜ」

「うそだろ。僕はうわさになるようなことなんか何もやっていないよ」

「ええっ。あんなことしたっていうのに、自覚がないのかい」


 あのー、「あんなこと」って、何?


「ちょっと、本当にわからないんだ。いったい僕が何をしたっていうんだい」

「やれやれ、あくまで『わからない』を通すって言うんだな」


 そしてマルセルはあきれたというような顔をして言ったの


「会長の“お誘い”を断ったそうじゃないか」


 途端によみがえる渡り廊下でのあの記憶


「えっ、あれが。あれがうわさになっているの」

「おいおい。本当に自覚がなかったみたいだな。どうかしているぜ」


 さすがに「どうかしているぜ」にはちょっとムッとしたな


「どうかしているのはそっちじゃないのか。急にあんな風に言い寄られて、『はい』と答える方がよほどどうかしているだろ」

「何言っているんだ。王家とお近づきになれる、またとないチャンスじゃないか。僕なら喜んでOKするところだぜ」


 ふーん、そうなんだ

 もしかしたら、マルセルみたいに考えるのがここでは一般的なのかもしれないわね

 この学園でBLが盛んな理由がわかったような気がする

 それにマルセルは長男。自分の家をもり立てていこうって気持ちが強いのかもしれない


「『王家とお近づき』ねぇ。僕にはよくわからないな」

「おいおいおい。それ、本気で言ってんのか」

「もちろん。だって僕が学園に入ったのは勉強のためっていうのが大きいからね」


 「勉強のため」が建前たてまえっていうのは前にも言ったよね。お母さまに学園に入りたい理由を聞かれた時

 繰り返しになるけど「BLを実際にこの目で見たいから」とは口が裂けても言っちゃダメ


「『勉強のため』ねえ。やっぱりお前は変わっているよ」


 ちょっと! 「やっぱり」って何よ、「やっぱり」って

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