第108話 本格捜査 結果

「収穫はあったみたいだな」


 全員の顔を見渡して、国王は満足気に頷いた。


「では、誰からにしようか?」

「俺からで。基本的な情報だから」


 二胡が挙手した。反対意見はないようだ。


「なんだっけ、強引派?ともかく、そいつらのアジトを見つけたよ。場所は意外なところだったな」

「どこなの?」


 ランが聞いた。二胡がいたずらっぽく微笑んだ。


「闇ギルドの地下金庫」

「「「「はあ?」」」」


 四人が同時に反応した。闇ギルドは、一般人が闇へ接触する唯一の窓口である。当然、警戒は厳重だ。そこを自由に使われるというのは、本来ならば考えづらい話だ。


 しかし、持ってきたのは二胡である。そして、残りの二人は頷いていた。


「それに関連する情報を掴んだ」


 ラオスが笑った。彼もまた、いたずらっぽく。


「彼と二人で街を歩いていたところ、教会に関連すると思われる密会の痕跡を発見しました。そこを追ってみたところ、意外な人物がラゼガとの密会に参加していたのです」


 レオニが説明する。あとはラオスが引き継いだ。


「闇ギルドの長だ。ラズが抑えてるはずだが、あれはどうやら洗脳に近いな」

「洗脳?」

「ああ。ラゼガがあることないことを言うのに頷いていた。少し考えればわかるレベルの嘘を見抜けないとなると、洗脳はかなり強力だな」


 ルイハがため息を付いた。


「彼はまだ、王都にいますか?」

「だろうな。ラズに聞くのが確実だが」

「それなら任せてよ。ラズとの連絡手段は持ってるからさ」

「流石だな。頼んだ」

「うん」


 ◇◆◇


「なるほど。それは特殊能力だね」


 花の画面に映し出された端正な顔、その唇が動いた。


 彼は、洒落者。長めの金髪を一つに結んでラフに垂らしている。それだけで、パっとしない服装であるにも関わらず、色気が醸し出されていた。


「そうなると、やはり洗脳系か?」

「いや。とても興味深いことに、この嘘は事実だ。少なくとも、ギルドマスターにとっては」

「詳しい説明を求める」

「もちろん。そんなに焦らなくても問題ないよ。計画は順調だ、ってラゼガは言ったらしいね。でも、それは間違っている」

「そうだな」


 国王や聖水の乙女が出張ってきている時点で勇者関連の噂に求心力を失わせる効果などない。無意味となったに等しいだろう。


「でも、一部分ではそんなことは計画の邪魔にはなり得ない」

「ギルドマスター的には、ということか」

「そう。ギルドマスターは自分こそが闇のトップ、組織の実態はいざというとき世界を意のままに操ろうと画策している者たちの集団だって思ってるからね」


 完全な操り人形というわけだ。哀れなほどに、何も知らない。


「多分、嘘を本当にするみたいな能力なんじゃないかな。この場合はギルマスの周りが影響して生み出された、発動者にとって都合のいい状況。もしも彼らが闇の真実を知っていたなら、もっと別の行動を取るはずだからね」

「つまり…ご都合主義?」


 二胡が呟いた。ほう、とリアンが目を輝かせる。


「どういう意味だ?」

「う〜ん、本来…とは少し違うけど、意味は小説とかで主人公の都合がいいように世界や展開が進んでいくっていうことなんだ。でも、今回はそのご都合主義的な能力が使われたみたいだね」


 二胡の無邪気と同系統である。一応、無邪気は別の能力も保持しているが。


「多分、それってリキストの能力じゃないかな?」

「そうだぞ?あ、そうか。教会関係者の特殊能力は公開されている。あくまでも裏社会で、っていう話だが。ラゼガの能力は勤勉。知識の吸収率が倍になるっていう能力だ。公表されてないのは教皇の親族くらいだな」


 つまり、未知の特殊能力が使用されたことで、リキストが黒幕であることはほぼ決定していたわけだ。


「ありがとう、有力な情報だった。また、会えれば」

「こちらこそ。健闘を祈るよ。とりあえず、噂は広がらないように注意しよう」


 洒落者との通話が切れた。正確には、盗聴・盗撮用植物の電源が、だが。


「ふむふむ。あ、次は私の番ね。実は教会で面白い話を聞きつけたの」


 自信満々に言うランを見て、ルイハは心の底から思った。闇の同僚なら良かったのに、と。


「一応マリア様も煩わしいと思っていたらしくて、諸々の対応を若手の派閥に頼んでいたらしいわ。もちろん、リキストに勧められて、だけれど」

「つまり?」

「リキストは、欲望派の陰謀と敬虔派としての対応を、一手に担ってたの」

「それは、ボロが出やすいですね。早速部下を向かわせましょう」


 ルイハがラズと同じような鳥類を呼び出し、何処かに飛ばした。


「では次は私達としようか。強引派のメンバー、そして体制がわかった。どうやら、やってはならないことに手を出していたようだ」

「やってはならないこと?」

「ああ。"もう一つの闇"と取引している。と言っても、奴らだって間抜けじゃない。わざわざ表に出るはずもないから、リキスト本人ではなく下請けのラゼガあたりの仕業だろう」


 国王は闇の内情についてしっかり知っていたらしい。


「拷問確定ですね。ありがとうございます」

「無問題だ。"もう一つの闇"との取引先が割れている。世界平和に大いに役立ててくれ」

「はい」


 ルイハが暗い笑みを浮かべた。全く悪そうじゃないのがずるい。


「じゃあ次は僕たちだね! 暇で改造してたら、どうも向こうと交信できるようになったみたいだよ!」


 リアンは爆弾も爆弾、核爆弾を持ってきたらしい。

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