第107話 本格捜査 その3

「王弟様に護衛を付けなくてよかったのですか?」


 歩きながら、ルイハが国王に尋ねた。


「ああ。ある程度の基礎は教えているし、最近は本場仕込みの軽業も覚えたらしいからな」

「本場仕込み、ですか?」


 国王は頷いた。頷きながら、ローリランのパフェを食べている。


「なるほど。しかし、屋敷の人たちも守らなくてはなりませんね。やはり護衛を付けては?」

「長命種の基礎を甘く見るなよ。リアンは世界的に見てだいぶ強い。ステータス換算で二千弱はあるだろう」

「人の域を超えるとは、流石ですね。万が一の対処に人を送り、あわよくば友好関係をと思いましたが…。彼がいる限りは問題ありませんか」


 一応思惑あっての会話だった。しかし、闇は私利私欲で動く組織ではない。その行動理念は唯一つ、世界平和を守ることだ。


 リアンが死ねば、世界は大きな混乱に陥るだろう。


 若し、それが誰かの陰謀や世界または国等の事情を含むものだったなら、ローリラン国王は怒り狂うはずだ。


 最悪、滅ぶ。人類が。


 目の前にいるのは一見するとただのイケメンだ。しかし、内包する力はとんでもない。


 第一、長命種と人類では地力が違う。血反吐を吐いて訓練して、ステータス換算で追いつけたとしても。


 存在としてのエネルギーが違う。


 万が一ローリラン国王が本気で世界の崩壊を望んだなら、もうルイハ達にできることは諦めることだけ。


 今、ルイハ達にできるのはそれを全力で阻止するだけだ。


 もちろん、そのために全力は尽くす。それは黒魔女トレインの望みでもあるだろう。ルイハだって、そこは譲れない。


 でも、若し長命種の誰かが本気を出したなら、きっとトレインは傍観する。


 ルイハ達は普通の、蹂躙される一般民衆として死ぬだけだ。止めようとはしない。もはや、傍観者であればそれでいい。


(もういっそ、暴走すればいいのに)


 冷めた考えは、意識に上ることなく消去された。


 ◇◆◇


 一方の二胡は、青葉と共に王都の中心にいた。探知を発動するためである。


 一応女装している二胡に対し、青葉は髪の色を変えただけだ。いちいち伸びては不便なので、二胡が新しい魔法を作ったのだ。



 染髪魔法 マスター:真田 二胡

 発動条件:髪が黒か白なこと。

 使用魔力:十センチで二。

 詠唱:「染髪、(色)」。単語として表せる色以外は無理。

 その他:髪の長さは変わらない。また、持続時間は5時間。重ねがけはできないが、続いて発動できる。



 現在の髪色は懐かしい藍色だ。長くはないので、こうしていると普通の青年である。


 二胡は周囲に気を遣わないので、青葉が護衛役だ。と言っても攻撃力はほぼ皆無なので、身を挺してかばうのである。


 青葉の要請があれば、近くで食べ物を食べる特訓をしているトリオが駆けつける。


 そもそも二胡の生命力や防御力は高いので、ほぼ問題はない。


 しかし、この一時間半ほどで青葉は7回暴漢を撃退していた。一人佇んでいたときよりのほうがよっぽどマシである。近づいてくるのは暴漢くらいだ。


 撃退といっても、青葉の攻撃力は一般か少し低いくらいだ。とりあえず何もせず効かない攻撃を受けていたら逃げ出した。


「あ、見つけた」


 唐突に二胡が呟いた。どうやら探知は切ったようだ。


「何をですか?」

「アジト。まあ、そろそろ日没だし戻ろう」

「わかりました」

「トリオも戻ってね〜」


 しばらくして、全速力でトリオが戻ってきた。どうやら、ローリランのパフェを一口食べるのに成功したらしい。


 ◇◆◇


 レオニは不機嫌だった。傍目にはいつも通り感じの良い好青年だが。しかし、不機嫌だった。


 理由は2つある。

 1つ目は、奴隷の美少女かランと一緒にいたかったにも関わらず、ルナはリアンと残り、ランは教会に一人で行ってしまったこと。


 2つ目は、どうにも合わない町娘(ラオス)と一緒になってしまったことだ。


「お嬢さん、もしかして聖神教徒?俺もそうなんだよねー、お茶しない?」


 絶対に、100%、わかってやっている。絶対にわざとだ。


 こうやって、必死になってレオニが築き上げてきたイメージをぶち壊すような、"とても仲が良くて気が合うガラの悪い友人"を演じているのだ。


 ああ本当に気に食わない。最初はラオスのことなんて気にしていなかったのだが。女性をあんな目で見るなんて最低よね! と言われてキレた。以来犬猿の仲である。


 まあ、この編成をしたルイハとしては、仲良くしてほしかったんだろう。それはわかる。だが、無理だ。


 だって、魂からして適合してないもん。主にあっちからこっちが。多分生理的に無理とか思われてる。レオニだって自分に対してそんな感情を抱くやつは大嫌いである。


 まあ、そうやって傍目には仲良くしているのである。実際はバチバチである。もう親の仇レベルの舌戦を繰り広げている。傍目には仲良くしているだけだが。


 そう、それが嫌なところなのだ。まだ準幹部の星4になりたてだった頃。腐れ縁なのか、その頃から序列的にも実力的にも抜きつ抜かれつの関係だった。


 ともかく、そうして近い立ち位置ということで同じ任務に従事することも多かった。


 傍目には仲良くしているせいで、上司達にやたらとくっつけられた。相棒とか言われた。心底嫌だった。


 星5になってからは周りが気づくお陰でわりと快適だったが、腐れ縁は続いている。


 そして、なぜか(理由に気づいていないのは本人たちだけだが)一緒に組んだときの相性がいいのである。ストレスは溜まるのに、効率だけが段違いなのだ。


「なあ。俺、手がかり見つけた」

「私も。奇遇ですね」


 まあ、こんなふうになってしまう。なので、やっぱり偶に、組まされる。


 これが、腐れ縁である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る