第106話 本格捜査 その2

「はあ、どうも。はあ、どうも。はあ、どうも。はあ、」

「申し訳ないのですが、そろそろ終わりにしてください」


 記者ローテンションはパニックになっていた。ローテンションという名の通り、癖のあるダークグリーンの長い前髪と痩身が陰気な雰囲気を醸し出している。


「えーなんといいますか、とりあえずは弟を助けてくれてありがとうございます?」

「疑問文にされても困ります。それでは、本題に入りましょうか」

「はあ。しかし、先程話した通り相手が誰かはわかりません」

「ええ、構いません。では、改めて当時の状況を教えてくれませんか?」


 丁寧に優しくルイハが聞く。尋問一つにも個人の特性が現れている。レオニは基本女性相手で色仕掛、ラオスは相手を見て変えるタイプ、ルイハは優しく解す感じだ。


「はあ。まず、いつものように依頼が入りました。僕の担当しているお便りコーナーがあるのですが、文の最初をそれぞれい・ら・いの三文字にするのです。内容を確認し、それとなく混ぜ込まれている依頼内容から受けるか否かを判断します」


 その後、依頼を受けるという合図なのだと言う。


「なるほど、世間の目に触れないのは賢いやり方ですね。今回のものも、普段と同じく?」

「はい」

「では、その手紙は手元にありますか?」

「はあ、もちろん。了解したあと個人的に送られてきた脅迫状と合わせて保管してあります。どうぞ」


 ローテンションは用心深い。普段はそのようなことは絶対にしないが、如何せん聖水の乙女と国王と王弟。有名な騎士に庶民に大人気の薬師、ついでに武闘大会の優勝者である。いや、二胡は認識されているかどうか微妙だが。


「覚えはありませんか?」


 ルイハが星5の二人に手紙を見せる。


「無いな」

「ありません」

「教会関係者のようですが、リキスト殿心当たりは?」

「いいえ、ありません」

「そうですか。ありがとうございます、ローテンションさん。今後とも」

「はあ。この度はありがとうございます」

「いえいえ、世界の平和を守るのが僕たちの仕事です。ねえ、レオニ殿」

「はい。気をつけてもだめなら、また気軽に相談してくださいね」


 外面よく笑う二人。流石は演技のプロだ。そのまま帰ることになった。


 ランの屋敷へ向かう途中、教会の前を通りかかった。


「それでは私はここで、帰らせていただきます」

「礼拝の時間ですね。お付き合いいただき感謝します」

「いえいえ、こちらの不手際でこのようなことになってしまい、申し訳ありません」

「仕方ありません。お気になさらず、と言ってもそうは行きませんか」

「災い転じて福となす、頑張りましょう」


 青葉が微笑んだ。災い転じて福となす…意味はなんとなく通じても、この世界にはないことわざだ。これで、青葉も転生者であると気づいてもらえただろうか。


 それからすぐ、ランの屋敷についた。


「大事な話があります。よろしいですか?」


 ルイハが、「よし、今日はもう帰ろう」という空気を破って発言した。


 全員が集まると同時に、大精霊が防音結界を張った。


「先程の筆跡に見覚えがありました。教会関係者のものです」

「ああ、それであんなに回りくどい言い方を」


 レオニが納得したように言った。一応星5なだけはある。


「ってことは、そういうことか?」

「はい。あれはラゼガという教会の若手司祭の筆跡でした。そして、ラゼガはリキスト殿の側近です」

「どういうことですか?まさか、リキストが、今回の黒幕だと!?」


 ランが狼狽して言った。聖水の乙女であるランに見抜けないとは、どういうことだろうか。


「その可能性が非常に高いと言えます。ラゼガはまだ若手で目立ちませんが、人脈が広く、特に欲望派に近しい。加えて、一度没落した家出身のであるため、庶民の生活にも詳しいです」


 状況的にも、黒に近いだろう。今まで黒幕の候補に上がってこなかったのは、目立たないこととリキストの側近であるという事実からだ。


 しかし、そのリキストへの信頼が崩れた今、彼は最も有力な黒幕候補の一人と言えるだろう。


「宗教は行き過ぎて暴走すれば理不尽の権化となる。彼らが大義名分として掲げる神の教えは、信じない者にとってはなんの免罪符にもならないからだ。見逃す訳にはいかないな」


 国王が宣言した。これにより、少数派閥強引派は、国家の敵に等しくなる。こうなれば、いくら幼馴染であろうともランは本気を出す。


「捜査本部を設置しようよ、兄さん」


 リアンが二胡からの情報をもとに提案した。


「そうだな。指揮は私が執ろうと思うが、どうだ?」

「異論ありません」

「ありがとう。では始めよう。できればリキストを監視したいが…。リアンの植物を設置しようにも接点がないしな」

「俺が走って行ってきます」


 二胡が名乗り出た。


「いいのか?」

「見つかってもどうということはないですし」

「よし、じゃあ頼む。えーっと、例のハンカチ?」

「ううん、監視用植物。聖水の乙女の能力を掻い潜るってことは、嘘発見器は役に立たなそうだし、そうなると記憶も催眠術とかでいじってるかもしれないからね。その点リアルタイムなら安心だ」


 大活躍のちょっと気持ち悪い花である。ささっと行って、ささっと戻ってきた。


 現在、リキストの胸には見覚えのない花がささっているが、おそらくは何も思わないだろう。メイドが誤ってガラスを割っても気づかないほど集中していたから。


「よし。ラゼガの情報集め、それから例の派閥についてもまとめてほしい」


 リキストの監視はリアンとルナ、その他は二胡も含め情報収集に出掛けた。

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