第105話 本格捜査 その1

「お騒がせしました。どうぞ、本題に入ってください」


 衝撃的な出会いだったが、まともそうな青葉の様子にラオスは安堵した。


「ああ。リキスト様には少し刺激的になるが…いいか?」

「はい。私には構わず、続けてください」

「わかった。俺が掴んだ情報は、今回の件に教会が関わっているっていう話だ」


 場がざわめいた。まさか、教会が?自作自演だろうか。


「教会といってもその一部だな。お前はそこらへんよく知らなそうだし、折角だから説明するか。いくら教会でも、派閥争いっていうのはある程度存在するんだよ。それで、今は大体2つの大きな派閥がある。1つ目はマリア様率いる敬虔派だ。とにかく聖神教命で、政治的なものや計略には疎い」


 純粋すぎてな、とラオスがつけたす。その様子から察するに、信者ではなさそうだ。


「で、もう一つが欲望派。神様にはもちろん仕えるけど、権力欲もあるし贅沢もしたいって感じだ。で、この2つはまあ意見が合わない。教皇はどちらでもない、中立か王道を行く感じだな。だからこそエスカレートしてるわけだ。欲望派が色々と策謀をめぐらしている」

「聖職者にも関わらず、ですか」


 青葉が眉をひそめる。聖職者がそれでは、信じている者が可哀想ではないか。奴隷仲間にも神にすがる者がいたが、どうなっただろう。


「一般人からすれば敬虔な信者だから、そこまで酷いものじゃない。しかし、教会としては深刻な問題だ。一方の敬虔派は気づいてもいない。専らリキスト様が抑えてたが、病に倒れてしまった」

「ええ。…面目ないです」

「仕方ないさ。ともかくそれでいよいよまずくなったため、教皇が出張ってきた。完全に抑えられ、悔しい思いをしていたところ、リキスト様が復活し、教皇が干渉をやめた。これを契機にもう一度攻勢に移ろうってのが欲望派の策なわけだ」


 要は、信仰心のすれ違いによるいざこざである。片方が気づいていないというのもたちが悪い。


『教会もドロドロだね〜』

『そんなもんだろ』


 魔剣は慣れているらしい。聖剣が苦笑する。


「なるほど。それで、敬虔派に近い聖水の乙女関連のデマを流すことで、求心力を下げようとしたのね」

「流石です、ラン様。欲望派の目的はあくまでそこであって、本当に勇者にしてしまおうとかいうわけではない。収束することも見越し、それに関連する混乱を利用しようとしたわけだな」


 教会の敬虔派を取り込んでおいて正解である。流石は二胡だ。


「しかし、事態はそれでは収まらなかった、というわけですね?」


 ルイハが尋ねる。


「そのとおりだ。欲望派なんて呼ばれているとはいえ、本質的には熱心な聖神教徒だから、世間知らずなんだよ。それが裏目に出て、こんな事になった、と」

「ふうん。何度か行った事はあるけど、そこまで穢れてなかったとは思うのよね。熱心な聖神教徒なら、普通するかしら?誘拐して、しかも奴隷として扱うなんて」


 ルナが言った。当然の疑問であり、ダークエルフ風の少年に対する同情も含まれた意見だった。


「そのとおり。実行部隊は欲望派とは別で、いろんな汚れ仕事を買っててでるパシリのような集団だ。その正体は二大派閥とは別の小さな派閥、もっと聖神教徒を増やすために、強引であろうと手を尽くすべきだって言う奴らで、「強引な手」を使っている上、殆どが叩き上げだから汚れ仕事も何のその、ってわけだ」


 黒幕と思しきものが出てきたようだ。流石は星5、ほぼほぼ丸裸になっている。


「なら、そいつらを捕まえればいいんだね。噂はなんとかするでしょ?」


 二胡が言った。ラオスが頷く。


「舐めんなよ」


 と、その時。


「それは任せてもらおう」


 新しい参加者が現れた。連れてきたのはリアンだ。話しは聞きつつ、気配を消してダンジョンをいじっていたようだ。なんかコンパクトになってパワーアップしている。


 そして、リアンが連れてきた、噂をまるごとどうにかできる人物。


「紹介します、兄さんことローリラン国王でーす!」


 ばばーん、とリアンが元気に紹介する。言われなくてもみんなわかっている。知らないのはルナくらいか。


(本当に俺等いらないな…。ローリラン国内の問題で、王にどうにかできない問題ないだろ。というか他国でもそうそうないだろ)


 ラオスはため息をつく。いや、人手は大いに越したことはないのだが。


「実は大臣たちに胃袋事情を心配されて、休暇をもらったんだ。暇を持て余していたところを誘われたので来た。状況は聞いている。一先ず、例の記者とダークエルフ系の少年の話、それから奴隷施設が主な手がかりか」

「はい」


(わぁー、さすが名君と名高いローリラン国王だなー。もうこの人だけでいいんじゃないかなー)


 棒読みだが、紛れもない本心である。


「奴隷施設の方は配下の騎士に調べさせましたが、民間の悪徳業者のようです。本人たちとしてはただ買っただけという認識だったようです」


 報告するのはレオニだ。仕事が速いのは当たり前、あの惨状で生きてる人いたんだ、と青葉は驚いた。


「少年の方は、街を歩いていたと思ったら、次の瞬間には奴隷用の馬車の上、馬車から降りる頃にはすでに施設の人間しかいなかったようです」


 ルイハもいつの間にか少年から話を聞き出していたらしい。


「であれば記者だな。では、行くか!」

「みんなでですか?」

「当然!」


 肝の座った家族思いな、ずる賢い記者を思い出し、ルイハは初めて同情した。

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