第102話 絶対に見てはいけない

「う」


 効果音はバターン、またはブーッ、だろうか。

 鼻血を出して、青葉が倒れた。


 顔は赤らんでいない。むしろ蒼白である。


 少し前までは赤かったのだが、少々(?)鼻血が出すぎているようである。


 なぜ耐性があるはずの青葉がこうなっているのかといえば、他でもない二胡子の化粧姿を見てしまったからである。


「青葉、大丈夫〜?」


 もちろん二胡子にやらせるわけには行かないので、人化した聖剣が介抱する。


「だ、大丈夫です…。あと、絶対に主様…二胡子様の顔を見ないで下さい。生命力が高いのと耐性が一般人の万倍位はあるので生きてますが、僕じゃなかったらいくら久遠の時を生きてきたトリオのみなさんでも死にます」

「うん、大丈夫だよ〜。俺も一応久遠の時を生きてきてるからね〜。そりゃまあ、見ちゃいけないものがあることくらいはわかるよ〜」


 ヘラヘラしつつ、聖剣は本気である。引き際は心得なければならない。退屈が人を殺すというが、好奇心もまた人を殺すのだ。聖剣は人ではないけど。


『二胡く…二胡子ちゃん、顔を洗いなさい』

「え〜。俺も見たい」

『絶対ダメ。早くしなさい!』


 流石の二胡も折れ、顔は洗ってくれた。丁度、青葉も落ち着いたようである。


「とりあえず、二胡子様への化粧はご法度ですね」

「死ぬもんね〜。これでいい〜?」

「はい。ありがとうございます」


 この世界のかつらは、どうも髪に馴染むタイプらしい。それでもバレるときはバレるが、地毛や顔の形に合わせて髪をとかすこともできるようだ。


 今は、聖剣が青葉の髪(かつら)を梳いている。


「うん、オッケ〜」

「じゃあ始めます」


 興味があるというので、皆見ている前で青葉が化粧を始める。


「流石は聖水の乙女ですね。いい化粧品を使っています」

「わかるの〜?」

「多少ですが」


 青葉がテキパキと化粧をし始める。大した時間がかかることもなく、そこに性別不詳の長髪美人が現れた。


「いかがでしょうか」

「いいね〜。きれい」

「光栄です、二胡子様。僕は色白な方ですし華奢と言って良いかもしれませんが、胸がないのをごまかすのには無理がありますから。幸いにも声は高い方ですが、女性にしては低いですし。というわけで、性別不詳ということにしてみました」


 まだ普通の服を着ているのだが、もう男装の麗人である。逆にこれじゃなかったらおかしいのではと思うほどだ。


「うんうん。すばらしい!」


 しばらくして、出かける用意ができたときだった。


「戻りました。まだ、いらっしゃいます…か?」


 ルイハが戻ってきた。そこで、二胡子と性別不詳の長髪美人と銀髪のイケメンと猫二匹が戯れていた。


「え…なんですこの状況」

「あ〜、忘れて?」


 二胡子が言う。聖剣がもとに戻る。何故かバレなかった。


「わかりました。あ、それで、記者と話がついたんです」

「どうなったの?」

「はい。金で吊られたわけではなく、脅されたのだとか。なんでも弟を人質に取られているらしく、開放されれば記事も書き直すしもちろん捜査にも協力すると」

「ふむふむ。その弟くんが何処にいるかはわかる?見た目の特徴でもいいけど」


 二胡は探知で探す気のようだ。


「背は高めで焦げ茶の髪に緑の目、浅黒い肌の少年、だそうです」

「オッケー。暑い地域の人なのかな?でも、砂漠が近いネザは特にそういう感じはしなかったけど」

「珍しいですけど、ダークエルフの血を引いているようです。ダークエルフはエルフとは別物なので寿命が長いわけではありませんが、魔力がやや高いのと耳がやや尖り、顔も整っていますね」

「オッケー任せて!」


 二胡が探知を発動する。探知圏内は結構広がっているようだ。


 青葉がルイハの目を隠した。不覚にも、ルイハは少し緊張してしまった。


「見つけたよ。近くの森の地下にある施設で、奴隷として扱われてるね。ちょっと弱ってるみたいだ。他にも奴隷がいるよ。契約は結ばれてそうだけど、殺せば問題ない。というわけで、よろしくね、青葉」

「僕ですか?」

「うん。俺には街でナンパされるという使命があるから!」


 二胡はやる気があるらしい。ナンパされたらローリランのパフェを奢ってもらえるかもしれないからだろうか。いや、そうに違いない。


「わかりました。殺す…のは僕の攻撃力的に難しいですが」

「そっか。何か手はある?」

「使うのは二回目になるでしょうが、特殊能力を使えば多分契約を僕に移せます。それをさらに主に戻せば、普通の状態になりますね」

「なんかリスクがありそうじゃない?それ」

「あります。まあそれくらいなら…」

「却下!貸してあげる」


 二胡が青葉に指輪を渡した。緑色の四つ葉のクローバーの魔宝石がついた指輪。


 大精霊の宿る指輪だ。


 つまり、大精霊を貸し出すよ〜、ということだろう。


「いいんですか?」

「モチのロン」

「古いですよ、それ」

「知ってる」

「やっぱり」

「じゃあ、よろしくね」

「はい。畏まりました。じゃあ行ってきます」

「行ってらっしゃい」


 青葉が走って出ていった。一般人としては速めである。あと、二胡直伝のラズ式走法なので、ステータスに比べても速い。


 体力もあるので、意外に早くその場についた。


「…久しぶり」

「あ、うん」


 何故かそこには、懐かしい美少女がいた。

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