第101話 新たな転生者

 リキストの変化に気づいたのは、その場で二人だけだった。


 ランと、青葉である。


 最も、ランは二胡の黒髪が珍しかったのだろう、ぐらいにしか思わなかった。一応、二胡たちと同じような雰囲気だなーとは思ったものの、それはないと否定し、あまり気に留めなかった。


 一方の青葉は、その仕草で察した。


 リキストは転生者だろう、と。


 スニーカーを見た、あの仕草の意味を青葉は知っている。自分も経験したからだ。


 久しぶりの故郷の面影に懐かしさを覚える。他の転生者の存在を知っているため、その存在に驚くことはないが、スニーカーの意味を少しだけ考える。


 これは、他の転生者から買ったものか。それとも、自分で作ったものか。


 リキストは、そもそも身につけていたとは考えまい。だが、この世界で見ることは、無いと言っていいほどに珍しい黒髪から、察することはできる。


 リキストは、二胡が同類であることを確信した。その上で何も言わず、その仕草を取り繕った。


 その理由はまだ推し量れないが、警戒するべきだ。


 青葉はそう判断した。


 ちなみに、一応二胡もリキストが自分の足元で目を留めたことには気づいているのだが、まあ、二胡ゆえ仕方ない。


「どうぞ」

「ありがとうございます。初めて見るお茶ですね」

「ハイビスカスティーといいます。珍しい素材で作っているので、世界でもこれしかないかもしれません」


 前世で聞いたであろう言葉。揺さぶりになるだろう。しかし、リキストは全く動じていなかった。


「すごいですね。あ、美味しいです」


 普段通り、先程と変わらない。しかし、それこそが転生者であり、それを隠したがっているという証拠だろう。


 普通、驚くはずだ。世界に一つだけ、などと。しかし、転生者ならば話は別である。


 当たり前だ。前世の飲み物なのだから。


 深層心理ゆえに、気づけない。動揺しないようにと意識することで、逆に嵌る。見事な罠だった。


「あ、青葉、お菓子なくなっちゃった。取ってもらっていい?」

「はい、主様」


 流石は二胡、グッドタイミングである。


「君たちもミルクを飲もう」


 さり気なく、トリオを連れて行く。


 隣の部屋に行くと、大精霊が防音結界を張った。


『それで、わざわざ私達を連れ出してどうしたの?ニャオ』

「あのリキストさんは、主様や僕と同じ転生者です。そして、それを隠している…僕らにも」

『怪しいね〜。警戒しとくってこと〜?』

「はい。あと、さり気なく探っていただけますか?子猫の状態なら警戒も解けるのではと」

『全く問題ないが…ご主人さまには伝えなくていいのか?』

「伝えたいんですが、その、ラン様の圧がありまして」

『ああ、ちょっとでもこの時間が続けば!ってやつ』

『まあ仕方ないわね。それで、どうする?』

「泳がせます。正直、このメンバーが転生者とはいえ負けるビジョンが見えないので」

『そうね…。特に二胡くんは』

「はい。運もいいですし」

『ああ…そうね』


 ◇◆◇


 青葉達が戻ってからも、優雅なお茶会は続いた。


「それで、新聞記事のことですが」


 リキストが、本題を切り出した。主にランからの圧で続いていたお茶会は終わりを迎え、作戦会議へと移行する


「情報は集めましたが、やはりよくわかりませんね。それで、教会には信者たちへの対応をお願いしたいんです」


 二胡が言う。営業の経験もあるらしい。


「もちろんですわ。我らの同士が下劣なデマなどに振り回されるなど、あってはならないことですから。では、私は早速取り掛かりたいと思います。勇者の称号を辞退したのは、恐れ多いという本人の希望であり、武闘大会での優勝者は聖水の乙女の対である勇者とは別物、という説明でよろしいですわね?」

「はい、お願いします」 


 マリアは教皇夫人だけあって、仕事のできるキャリアウーマンのようだ。


「あ、リキストは好きに使って下さって構いませんから」


 優美な微笑みを残し、マリアは去っていった。


「じゃあ、作戦はどうしようか」

「それは僕から提案しましょう」


 ルイハが微笑む。


「まず僕はローテンションに接触します。そこから黒幕の情報を見つけ出そうと思っています」


 作戦が決められていく。基本的には噂の上書きのための作業だ。


 レオニは騎士団を中心に間違った情報であるとの情報を広めるという。


 ランとリキストが広場で演説し。


 リアンは国王や国の重鎮へ働きかけ。


 二胡は女装してナンパを引っ掛けるなどして噂好きを狙い。


 青葉は連絡要員として街を回ることになった。


 ルイハ、レオニ、リアン、ラン、リキストが出掛け、部屋に残るは二胡たちだけとなった。


『あのリキストっていう男、転生者だそうよ。自分が転生者ってことを隠していて怪しいから、気をつけて』

「うん、わかった。じゃあ、別行動になるわけだけど…。青葉、目立つよね」

「そうですね。白髪など珍しいですし、顔もこのとおりですし、一応闇の準幹部級なので、噂になっても困りますよね」


 一応、どころかしっかり幹部で、星4は星5が別格なだけで正式に幹部なのだが、まあ二胡付きなのでそういう扱いになるだろう。


「一応、ラズから使うかもってことでかつらを持ってるよ。ただ…」


 二胡が取り出したのは、女物の藍色の髪の毛だった。長く、少し毛先にウェーブパーマがかかっているようだ。


「僕の前の髪色ですね。なぜ藍色?」

「黒に近くて俺の目の色と合ってるんだってさ。俺も女装するし…青葉もどう?」

「幼い頃に女装などへの抵抗感は死滅しましたが…。流石に主様ほどの隠密能力はありませんので、厳しいのでは?」

「化粧とかできない?」

「それはできます。バッチリ顔のタイプを変えられて、女装用ですね」

「お〜。じゃあそれで」

「はい。あ、主様もやってみますか?隠密度がアップすると思います」

「いいね〜」


 二胡子がメイクアップしてしまうらしい。

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