第99話 集まる その1
翌日。
ランに事情を話すと、二つ返事で協力してもらえることになった。
「そんな噂、流れるだけで困るもの。喜んで協力するわ」
「ありがとう」
朝食を取りつつ待っていると、やがて来客があった。
「ちょっとまっててね」
ランが出迎えに行き、少し経ってからやってきた。
二人の人物を連れている。
「紹介するわね。こちら、教会ではとても有名な方で、特殊能力ではないのだけど、薬草を使った治癒がとても得意な方よ。ルイハ様と言うの」
「二胡殿ですね。決勝は僕も拝見させていただきました。まさか、ラン様とお知り合いとは。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします、ルイハさん」
十中八九、美食家だろう。素顔を見るのは初めてだが、結構整っていて、若い。柔らかな笑顔を浮かべていた。
仮面舞踏会での話し方は独特だったが、どちらが素かはわからない。
ラズも普段とは違う様子だったし、あれは仮面舞踏会なので、どのような仮面を被っていてもおかしくはないだろう。
「こちらは、騎士団に所属している、レオニ殿。次の昇進では、騎士団幹部か、近衛騎士だと専らの評判よ。私は聖なる水で治癒できるから、たまに討伐などに参加する時があるの。その時に仲良くなったのよ」
「はは、あのときは助けられました。初めまして、二胡殿…いや、二胡様というべきですか。決勝は素晴らしかったです。私は騎士なので双短剣を目にする機会はあまりないのですが、尊敬しています。どうぞよろしくお願いします」
「こちらこそ」
騎士は相変わらず外面が完璧だったが、中身が中身なので軽くいなしておいた。長文はあまり好きではないらしい。
「それで今日はどのような御用ですか?」
「ここでは話しづらいので…個室はありますか?」
「それなら俺の部屋に行きましょう」
二胡の部屋に移動すると、青葉とトリオ(まだ猫)が待っていた。すでに事情は伝えてある。
「主様、ここで話すのですか?」
「うん。大精霊、よろしく」
『お任せあれ。ニャオ』
大精霊が防音結界を張る。世界最強クラスの結界なので、問題はないだろう。
「我々は二胡様の依頼に協力しようとやってきました。ラン様は聖水の乙女。事情はわかっておられるかと思いますが」
騎士が言った。
「それはまあ、もちろん。しかし、まさかこんなところで二胡と貴方達の縁が結ばれるとはね」
さすがラン、敏感に感じ取っていたらしい。
「では、話を始めましょう」
「あ、二胡殿、敬語は結構です。命令をするわけではありませんが、一応位は貴方のほうが上ですから」
「はあ。なら、そういうことで。ルイハさん、でいいかな?」
「はい」
「私も、敬語はなしでお願いします。レオニと呼び捨てて下さって構わないので」
「うん。じゃあ、始めよう。まずこれを見てほしい。ラズに貰った新聞を、青葉に写してもらったんだ」
二胡が新聞を配る。目聡く騎士…いや、レオニが反応した。
「青葉とは、そちらの?」
「はい。従者の青葉と申します。主様とは同郷で、その縁で拾っていただきました。一応、星4に属しています」
「それはそれは。とても字が綺麗ですが、まさか学園かなにかに?」
「とんでもない。昔、英才教育を施されたので、久しぶりに書いてみただけです」
「そうですか。すごいですね」
何気ない会話だが、レオニの下心はラズの話を聞いた二胡に筒抜けである。
「この記事は世界にとってあまり良くないから、元の噂ごと消してほしいというのが依頼の概要なんだけど、どうかな?」
「由々しき事態ね。聖水の乙女として、見逃せないわ」
「同感です。このローテンションという記者は僕もたまにお世話になるのですが、お金や利益次第でどんな記事も書きますよ。その上有能なので、中々に難しい。とりあえず接触する必要があるでしょう」
なるほどね、とランがルイハの言葉に頷く。
「私も行ったほうがいいかしら。色々と便利よ、嘘発見器だもの」
「そうだね。あ、そろそろかな」
二胡が部屋の壁から離れた。
「なんですか?」
レオニが首を傾げた瞬間、そこに扉が出現した。
「久しぶりだね、二胡。僕も協力するよ!」
バーンと扉を開け、リアンが登場する。
「久しぶりってほどじゃないんじゃない?昨日も会ったし」
「あれは会ったに入らないよ。つまり、久しぶりだ」
「ああ、確かに。そういえば、褒賞の件はどうなったの?」
「誰一人持って帰らなかったよ」
「へえ。あ、ラズから通信。胃に穴が空きかけたぞ!だって」
「うわあそれはごめん。仕方ないんだよ、僕じゃなくて兄さんが決めたんだから!」
「後で謝っときなよ」
「うん」
二人のやり取りを、ポカンとして三人が眺める。青葉は落ち着いて紅茶の用意をしていた。トリオは言わずもがな、泰然自若として遊んでいた。
「リアン王子?なぜ、ここに?」
「昨日見たものですね。あの、お二人はどういった関係ですか?」
レオニとルイハが困惑しながら尋ねる。
「二胡に言われたから来たんだよ。二胡とは友達?親友?まあそんな感じ。昨日ぶりだね。闇の幹部なんだっけ?あ、でも、騎士と医師なんだっけ?」
「つまり、協力していただけるということですか?」
「ご名答!よろしくね」
流石は星5、事態を飲み込んだのかすんなりと握手し、大きな騒ぎにはならなかった。
「これ、解決しない可能性万に一つありますか?」
『無いと思うな〜。そもそも御主人様ひとりでオーバーキルでしょ〜?ミャ〜』
『ははは…。にゃん』
もはや仕事をする気もないらしい。
「じゃあ、とりあえず現状どこまで噂が広がっているのか確認しましょうか」
「俺の出番だね」
「僕も手を貸すよ」
早速、二胡の探知とリアンの盗聴,盗撮用植物が火を吹いた。
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