転生者と、王都の事件

第98話 新たな依頼

〔二胡、これを見てくれ〕


 リアン襲来の衝撃が冷めてきた頃、ラズが言った。


 いつの間にか、画像の転送機能がついていたらしい。いつかのバーのマスターの特殊能力と同じようなことができるらしい。


 頭の中に浮かび上がったのは、新聞記事のようだった。残念ながら二胡は文字が読めないので、翻訳する。


 二胡の翻訳魔法は、こういうイメージ上の文字にも作用するらしい。


 読めるようになったので、さっそく読んでみる。

 ―――――――――――――――――

 武闘大会優勝のニコ選手、勇者に内定か?


 先日の武闘大会は諸君も観戦したことだろう。特殊能力を使い、一般に公開された決勝戦はすごかった。

 その決勝戦で優勝したニコ選手が、勇者に内定したとの情報が今朝、噂としてこの新聞社にも入ってきた。

 ご存知の通り、ニコ選手は勇者の称号を辞退した。前代未聞のことで、これもまた事件となったが、その理由は勇者に内定したからなのだ。

 街の噂によれば、ニコ選手の勇者辞退は、武闘大会に置ける勇者と聖水の乙女が選ぶ魔王と戦う勇者の意味が違ってくることが関係しているのだという。

 すでに勇者となっている者が勇者になったと言われても話題性に乏しい。故に、辞退したらしい。

 勇者と聖水の乙女の恋物語は、歴史的にも数多くの乙女たちの心を震わせてきた。今代の二人にも、幸せなラブストーリーを期待したい。

       記者:ローテンション

 ―――――――――――――――――


[随分勝手に書くんだね。っていうか、ほぼ街の噂じゃん。大丈夫なの、この新聞社]

〔さあな。だが、それだけ街に噂が出回ってるってことだ。勇者はこちらで用意してるし、聖水の乙女によって勇者が選ばれるのは魔王が出現したときのみ。事情を知ってる権力者がこの話を聞きつけて、魔王が出てきたと勘違いされるとパニックになる。それを防ぐため、二胡にはこの噂を消してほしい。依頼だ、頼めるか?〕

[うん、できるよ。でもこれ、わざわざ此処で言ったってことは、なにか意図があるの?]

〔もちろん。ここにいる奴らは全員何にでも使える。親交を深めるためにも、協力を取り付けろ〕

[ん、オッケー]


 二胡は早速行動に移した。


 会場を見渡し、ちょうどよい人を探す。


「"美食家"って、きのこは好きですか?」

「きのこ?もちろん好きだよ。それがどうかしたのか?」

「実は、美味しいきのこを持っているんです。俺は聖水の乙女の屋敷にいるので、よかったら明日にでも」

「…そうか。わかった、行こうじゃないか」


 とりあえず一人、話をつけることが出来た。


 やはり、好きなものを刺激するのが良いらしい。


 次に目に入ったのは、騎士だ。


 相変わらず町娘と楽しそうにしているが、「喧嘩するほど仲がいい」の逆ということだろうか。


「"騎士"ちょっといいですか?」

「なんでしょう?」


「実は、俺の従者はの出身なんです」

「八年前に焼けた娼館…?」


 思い当たる節があったらしい。上々だ。


「ところで、実は相談したいことがありまして。俺は聖水の乙女の屋敷にいるので、明日、良かったら来てくれませんか?もちろん、お礼に奢りますよ」


 何を、とは言わないのが接待の基本である。相手の想像力を掻き立てるのが大事なのだ。


「もちろん、私で良ければ」


 早くも二人GETである。


「ありがとう」


 ちらっと町娘の方を見ると、特に反応しなかった。聞こえていたと思うのだが。


「まあいいか」


 次のターゲットを探す。しかし、芳しくない。


 ラズはダメだし、プリンスも孤高な感じでダメそうだ。


 青年はいまいちキャラがつかめないし、インテリアは論外。


 話しやすそうなのはナターシャと洒落者だが…。


「そのパフェ、好きですか?」

「ええ。美味しいわよね、ローリラン」


 ローリランを紹介するという名目で呼び出そうと思ったのだが、女性だけあって情報通である。


 他にも手はあるが、これはすぐには無理だろう。しかしまあ、声をかけておく必要はありそうだ。


「俺、前はネザの街にいたんですよ。そこで、王子妃に簪っていうのを作ったんです。得意なので、興味があったら連絡してください。ラズか、聖水の乙女に聞けば居場所はわかると思います」

「あら、ありがとう」


 一応わたりはつけたので、以後なにか困ったことがあったら相談してもいいだろう。


 さて、次は洒落者だ。


「"洒落者"って、靴は好きですか?」

「好きだよ。おや、君は珍しい靴を履いているね。故郷のものかい?」

「そうなんです。とても動きやすいんですよ」

「それは良いね。最近のはお洒落だが動きづらくて大変困っているよ」


 やれやれ、というように肩を竦めてみせる。


 しかし、その実彼は靴に興味など無いことが察せられた。


 普通、好きだったら気になるだろう。異国の靴だ。しかし、洒落者が興味を示したのはその履き心地だった。


 つまり彼は、普段履き心地で靴を選んでいる。彼が着ていれば大抵のものはおしゃれになってしまうのだろう。


 元に、地味な服をおしゃれな服としてきていた。


 まあ、興味があれば最初の時点で二胡に聞いていただろう。その靴はなんだい、と。


「三人か〜。まあ、ランとリアンには協力を仰ぐし、問題ないかな」


 依頼の準備は終わったようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る