第61話 しばしの別れ

「そうか」


 ルル少年のことをラズが提案すると、プリンスは興味を持ったようだった。


「素質は十分だと思うが、道徳観念が問題だな。ルルって少年のデータなら頭に入ってるが、あんまり幸せな人生じゃなかったはずだ。そこのところしっかり確認して、仕込みが終わったら送ろうかな」

「わかった。じゃあそういうことで。またな」

「あれ、もう行くのか」

「ああ。王都で準備しとくよ」

「支配人は大変だな」

「まあ、仕事だから。一ヶ月後、また会おう」

「わかった」


 話は終わったので、孤児院の仕事に戻ることにした。


「おかえり、ユー。そろそろ夕方だね」

「そうだな。繁忙期は過ぎたか?」

「他にも悪ガキが居て、クイーンたちが矯正してたよ。アスモデウスが意外に怖くて」

「そっか。じゃあもう大丈夫そうだな」

「うん。夕方だし、そろそろ帰ろう」


 孤児院から帰る、となったとき、ロー君が泣きわめいて大変だった。ルル少年の姿が見当たらず、二胡が探してみると何故か物陰にいた。


「何してるの?」

「っ二胡子先生…」


 ルル少年は泣いていた。意地っ張りなところもあるのか、と二胡は意外に思う。


「なんで来てくれなかったの?」

「だって、悲しいもん…」

「そうなの?」

「うん…」


 二胡の言葉は慰めになっていないが、ルル少年には良かったらしい。


「ねえ二胡子先生、僕大きくなったら、ロー君より早く迎えに行くから、待っててね」

「あー、うん。二胡子先生は絶対にお嫁に行かないよ」

「そうなの!?」

「そうだね」


 あくまでも二胡子の話である。二胡は一応いつかは結婚したいと思っている。できるかどうかは微妙だが。


「わかった。それまで他の男になびいちゃだめだよ。あのユーとは別れるんだ。大丈夫、僕はバツイチなんて気にしないよ」

「よくわかんないけど、ユーとは結婚してないよ」

「…え?そうなの?」

「うん。イチャイチャとかしてないけど、なんで?」

「だって、独身じゃないって…」

「言ってないよ?まあいいや、わかった、他の男性とはなるべく結婚しないよ」

「なるべく?」

「そりゃ、君より魅力的な男性がいれば結婚するし、不可抗力ってこともあるじゃん。死ぬのは嫌だから」

「あ、そうか。っていうか、二胡子先生意外に喋るね」

「あ、うん、えっとそうだね?」


 ラズとの話を思い出した二胡は焦った。


「じゃあ、バイバイ。忘れないでね」

「うん。できればまた会おう」


 二胡はルル少年と別れた。会うのはこれが最後かもしれないし、しばしの別れなのかもしれない。


 その後会ったロー君と同じような交流があったのは、二胡のみぞ知ることである。


 ランとは明日ギルドで会う約束をした。


「あー、じゃあそろそろ僕も帰んないとな」


 森について、リアンが言った。


「そうなの?」

「うん。またすぐ会うと思うよ。あ、そうそう、二人に渡したいものがあるんだ」


 リアンが懐から小さい耳飾りを取り出した。


 聖剣他二胡の仲間は人化に疲れて休憩中である。


「なにこれ?」

「通信機。お互いの位置情報も共有できるよ。今のところ、二人分しかないんだけど、あげる。ほら、何か便利なもの作ってって言ってたでしょ?」

「へえ、すごいね。ありがとう」

「これも植物なのか?」

「いや、これは機械に近いよ。植物のほうが可能性はあるんだけど、意図的な操作ができないから。これは似たような性質を持つ植物を参考に作ったものだよ。ほら、あの音声を拾うやつも使ってる」


 その後、リアンに使い方のレクチャーを受けた。


 銀の小さいイヤリングには音を拾う機能がついているらしく、内部の音(つまり内側から響いてきた声)を拾って相手へと伝達する。


 稼働の合図は合言葉。〇〇(名前)に通信、と呟けばつながる。


「最後に位置情報だけど、これは僕に聞いてね。さすがにこれでやるのは難しいから」

「僕に聞くっていうのは?」

「僕も同じものを持とうと思うんだ。まだできてないから、多分二週間後くらいには完成すると思うよ」

「分かった、ありがとう。合言葉はリアンに通信、でいいか?」

「大丈夫だよ。それじゃ」


 リアンはダンジョンに入っていった。荷物はまとめてあるらしい。


「バイバイ!」


 リアンがあっという間に行ってしまうと、ラズは二胡と向き合った。


「俺もそろそろ行こうと思う。武闘大会が終わったら、王都のローリランに来てくれ」

「うん、わかったよ」

「よし。あと一応、王都に着いたら闇によってくれ。依頼があると思う。王都は国の中心だから、その分仕事も多いんだ」

「オッケー、了解だよ。じゃあまた会おうね」

「そうだな」


 ラズは森から出ていくらしい。星5になっても、ラズは上司固定なようだ。二胡に文句はない。


『しばしの別れですね〜。俺もなんだかちょっと寂しいです〜』

『そうだな。まあまた会えるんだし、いいですけどね。それにしても、ルルがご主人さまを好きだったとは』

『え、気づかなかったの?魔剣鈍いわね』

『えっ』

『大精霊、気づいてたの〜?』


 3人も平常運転のようだ。


「明日ギルドに行くから、今日は早めに寝よう。このベッドも寝収めだしね〜」


 荷造り(と言っても持ち物はほぼラズが持っていったが)を終えると、二胡は早速ベッドにもぐりこんだ。


「気持ちいい…」


 その日はいい夢を見たようだ。それには、ラズとリアンとランと、何故か知らない少年(いや、青年?)が出てきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る