第14話 大精霊
「私の仕事は、魔王と戦う勇者を決めることなの。魔王に勝てる可能性が最も強くて、尚且つ人格に問題のない人間。結構難しいのよ?あ、二胡は勇者にはなれないからね?」
「なんで?」
まさか、性格に難があることがバレたのだろうか。いや、接していればわかるが。
「だって、魔王とかどうでもいいって思ってるでしょ?」
「正解だよ。流石だね」
「誰でもわかるわ。それに、無理強いは良くないし。魔王で刺し違えた勇者なんて、星の数ほどいるもの。…それに、あなたが勇者になれば、私は死ぬわ」
「どういうこと?」
「聖水の乙女にはね、魔王戦で勇者の補佐をするっていう役目もあるの。私が生み出す"聖水"は、勇者にだけ、抜群の効果を発揮するポーションだから。そして、いざというときは、勇者の身代わりになって死ぬ。だから、国の…いえ、世界のみんなが私を尊敬しているのよ」
そう言ったランは、誇らしげながら、どこか苦しそうだった。
「世界のために犠牲になるから?」
「まあ、そうね」
「それはおかしいよ。だって、君が好きですることじゃないだろ?そりゃ、世界のために!って率先して突っ込んでくんだったら尊敬に値するけど、君は義務でやってるんだから、それは違うでしょ」
「そう?」
「うん。別に立派でもなんでもないじゃないか」
「…そうね」
なんだか悔しそうだった。
「それが私の誇りだったのに、なんでそんな簡単に崩しちゃうかな」
「え、崩した?そう?別に尊敬される必要はないと思うけどな〜。だって、尊敬の念の倍は感謝されるじゃん。それで良くない?っていうか、尊敬されるより良くない?」
「そう?」
「うん」
「そっか」
今度は嬉しそうだった。
「ねえ二胡、もしよければさ」
「何?」
「私と一緒に勇者を探してくれない?」
「それはできないよ」
「そ、即答…」
落ち込みつつも、予想していたのか、立ち直りは早かった。
「君の仕事じゃん。俺に手伝う義理はないよ」
「言うと思った。そうだ私、しばらくしたら王都に戻らなきゃいけないの。一緒に来ない?王都は経済の中心よ。それに、ダンジョンがあるの。どうかしら?」
「しばらくって、どれくらい?」
「一ヶ月くらいかしら。もちろん、無料で連れて行ってあげるわ。護衛としてね。まあ、それなりの戦歴を上げる必要があるけれど」
「いいよ」
「いいの?」
二胡の言葉に、ランはだいぶ驚いたようだ。ダメ元の話だったらしい。
「うん。丁度いい。一ヶ月したらここから出なきゃいけないし。旅に出る費用は、それで結構貯まるんじゃないかな〜?」
「旅に出るの?」
「うん。楽しそうじゃない?」
「そうね。そのとおりだわ。旅をしてて、聖水の乙女が近くにいたら、会いに来てくれる?」
少し寂しそうに言った。どうもランは、二胡のことが本気で好きになり始めているらしい。
「いいよ。まあ、結構先の話だけどね」
快い返事に、ランがぱっと笑顔になった。
「ありがとう!」
「別に。あ、そろそろ夕方だね」
二胡の言うとおり、空が赤くなり始めていた。
「門番さんとの約束は守らないと。送ってくよ」
「ありがとう。ねえ、明日も会える?」
「そうだね。明日は冒険者以外の依頼も受けてみようと思ってるから。頼める?」
「ええ」
ランはそれから一日、ご機嫌だった。
『行っちゃいましたね。楽しかったですか?』
「まあね〜。パフェも美味しかったし」
『すごい食べてましたよね〜。羨ましいな〜』
『剣の宿命だ』
「ローリラン、他の所にも店出してないかな〜?」
『どうですかね〜』
聖剣が言う。そこに、食事へのこだわりは見受けられない。すでに、諦めている…というか、そこまで欲求もないのだろう。
『みんな食べたくないの?私は一度味を感じてみたいけどな〜』
唐突に、知らない声が聞こえた。
『『「誰?」』』
珍しく、声が3つ揃った。
『大精霊の木の精?』
女のような声が言った。
『つまり、大精霊ってこと〜?』
『そうよ。この指輪に乗り移ってるの〜。鞘は君たちの力が強くて無理だったけどね。これで二胡くんは無敵だよ。最強の矛と盾を手にしたんだから』
誇らしい感じが伝わってくる声だ。結構お姉さんという感じがする。二十代後半、といったところだろうか。
「それじゃ矛盾だよ。ねえ大精霊、その矛で盾をついたらどうなるの?」
『そうね。…二胡くんが持っていたほうが勝つわ』
「面白いね〜」
『ああそうだ、運のステータス、プラスしておくわね』
「どういうこと?」
『この四葉の魔宝石には持ち主の運をアップさせる効果があるのよ』
「カンストしてるよ?」
『これは特別力が強い石なの。この大精霊様が操作すれば、一万はいけるわ』
「あんまりすごい感じしないな〜」
『いいの。ほら、できたわ。これで、世界最強ね』
「へえ〜。まあいいや、食堂に行こう。…あ、お金ないんだっけ。じゃあこのいちごもどきを食べよう」
突然の大精霊の出現にもびくともせず、苺を食べ始める二胡。
『大精霊なんて、久しぶりだな〜。それにしても、カンスト超えか〜。越えられないはずの壁を越えて、最強になっちゃったね〜』
『サラッとしてるがすごいことだぞ』
『御主人様なら当然じゃない〜?』
『すごいわね、二胡くん。よろしく』
「よろしく〜」
一行は、更ににぎやかになった。
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