第11話 ドラゴンの卵定食

「おはよう」

「あ、ニコ!おはよう」


 下に行くと、すでにランが待っていた。


「早いな」

「それを言うならニコもでしょ?」

「うん、まあ。あとさ」

「何?」

「ニコっていうのやめてくれない?」

「え…?呼び捨ては嫌だった?」

「いや、そうじゃなくて、正確には俺の名前は二胡なんだ」

「ニコじゃなくて…ニコ?」

「二胡。俺の故郷には漢字というものがあって、音を表すだけの字じゃなく、意味もあるんだ。俺の名前はたしかに発音的にはニコで合ってるんだけど、正確には二胡。OK?」

「お、OK。よろしくね、二胡」

「うん」


 どうやらずっと気になっていたらしい名前の漢字問題を解決し、二胡は満足そうだ。


「ねえ、まだ早いし、食堂に行かない?まだ食べてないよね?」

「確かに食べてないよ。でも、依頼を受けてからじゃだめなのか?食事しながら作戦も立てられるしそっちのほうが良いと思うんだけど」

「えー。今食べたい」

「そうか。じゃあいいよ、別に」

「やった!」


 ランは嬉しそうだ。早速食堂に向かった。


「これ、なんて書いてあるのかわからないな」

「じゃあ私のおすすめにする?」

「おすすめ?」

「うん。私、これが好きなの。ドラゴンの卵定食!どう?」


 なんだか無駄に高そうな定食である。


「いいんじゃない?あ、でも、俺今無一文だ」

「フッフッフ!ラン様は聖水の乙女。金には困らぬよ」

「聖水の乙女?何それ」

「知らない?じゃあ、食べながら説明するね。あ、マイにかけて食べるのがおすすめだよ。セウユを垂らしてね」

「まるっきりTKGだね」

「てぃー…なにそれ?」

「気にしないで。じゃあ、あの席に行こうか」

「いいね!あそこならネザの街が一望できるわ」


 ドラゴンの卵定食を手に、窓側の二人席に向かった。と、


「おいおいカップルか?そこの席は俺たちが目をつけてたんだよ。どけやコラ」


 ガラの悪そうな男ふたり組に絡まれた。


「私達が最初に座ったのよ?」

「だからなんだよどけ女」

「ちょっと!」


 文句を言おうとしたランに、二胡が言う。


「で、聖水の乙女って?」

「二胡、今はちょっと」

「なんで?気になるじゃん」


 言いながら、TKG…マイにドラゴンの卵とセウユをかけたものを食べ始める二胡。


「…おい、それってドラゴンの卵定食か?」


 ガラの悪そうな男Aが話しかけてきた。


「そうだけど」

「それめっちゃ高いんだぞ」

「やっぱり?俺もそうだと思ったんだよね〜。まあ、ランが買ってくれたし。聖水の乙女?って、儲かるのかな?」

「…せ、聖水の乙女!?」

「す、すいやせんでした!」


 男たちが体を2つに折った。ヤ〇〇の方々もこんなふうにやるのだろうか。


「いいけど」

「ねえ君たち、なんで俺たちに絡んだの?」

「そんなのいいかもがいるとか思ったからに決まってんでしょ」

「人を探してたんです。この席だと、ネザの街が一望できるので」

「へえ…。誰を探してたの?」

「うちの姫さんです。逃げてしてしまって…。ギルドに依頼を出したんですけど、自分らでもやろうかなと」


 頭をかくその姿は、とてもヤ〇〇には見えなかった。


「ふーん、ギルドにね…。じゃあ、これ食べ終わったら受けようかな、その依頼」

「冒険者の方ですか?」

「まあ。他にも色々やる予定だけど。そんなに意外?」

「聖水の乙女の隣におられる方ですから、さぞや身分の高い方かと」

「普通の平民だね。森で知り合っただけだから」

「森…って、あの大精霊の木があるフェンリルの!?」

「うん。多分それだね」

「すごいですね…」


 感心したようにヤ〇〇が言う。先程までの尖った様子はどこかへ行ってしまったようだ。


「あの、姫さんを探してくれるって、本当ですか?」

「見てから決める。ラン、早く食べちゃって」

「…わかったわ」

「ラン?どうかしたのか?」


 機嫌の悪そうなランに、二胡が聞いた。


「別に…」


 口では言いつつ、やはり不満そうだ。


『御主人様〜。ランは御主人様のことが好きなんですよ〜。だから、自分以外の女性である「姫さん」を御主人様が探すのが気に入らないんです〜』

「そうなのか」

「へっ?」


 ランが間抜けな声を上げた。


「気にするな。お、終わったな」

「急いで食べたからね」

「じゃあ、行くか」

「案内します!」


 元気のいいヤ〇〇について、2階に降りる。


「ここが冒険者のところか…」


 想像通りの場所に、二胡がキョロキョロとあたりを見回していると、受付嬢らしき女性が声をかけてきた。


「ニコ様ですか?」

「二胡です」

「良かった、実は昨日、本職を決めていなかったようで。あの受付嬢は、たまに物忘れをするんです。決めていただけますか?」

「あ、冒険者で」

「かしこまりました」


 受付嬢が去っていき、依頼の場所へ向かった。

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