第一章 ネザの街

第9話 プロローグ

「ラン様、揉め事が発生いたしました。私達ではどうしょうもなく…。客人にこのようなことを頼むのは気が引けるのですが、ご助力願えないでしょうか」


 市長がランの部屋へやってきた。


「揉め事とあらば、行かぬ訳には行きません。案内をたのめますか?」

「は、はい!ありがとうございます」


 案内された先は、入門だった。


「ないものはないんですよ。仕方ないでしょ?」

「そんなわけあるか!」

「あるんだから仕方ないじゃないですか」

「とにかく、入れるわけにはいかん!」


 激しく…はないが、言い争う声が聞こえた。聞き覚えのある声ばかりだ。


「じい、どうしたの?」

「こ、これはラン様。ギルドカードを持っていないという輩がおりまして。すぐに、追い返します」

「いいわ」

「え?」


 じい…ランの執事が驚く。


「ニコ、随分早かったわね」

「ああ、ランか。ギルドカード?は持ってなくて。この門番さんが入れてくれないんだ」

「門番じゃないわよ」

「え?」

「そんな立派な燕尾服の門番がどこにいるの…」


 改めて見ると、なるほどたしかに立派な服だ。ランの執事でこれなのだから、ランはかなりいいとこのお嬢様なのだろう。


「ホントだ。まあいいや、入れて、門番さん」

「だから門番ではない!怪しいやつ、出ていけ!」

「いいのよ、じい。ニコは怪しい人じゃないわ」

「やはり、お知り合いなのですか?」

「ええ。とてもイケメンでしょ?」

「い…?普通の、特に特徴のない顔では?」

「そんなことないわよ。もういいわ、ニコ、ギルドカードを持ってないなら、作りに行くわよ」

「うん」

「ちょっと、お嬢様!」


 ランは二胡の手を取り、あっという間に街に入ってしまった。こうなればついていくしかないと追いかけながら、門番…執事は思考する。


(あの男、特にイケメンではなかった。しかし、ラン様は聖水の乙女。真実を見抜く力を持つ者…。何度思い出してもイケメンには思えんが、先入観を捨てれば、あるいは…)


 追いついたらイケメンだと思って見てみよう、と執事は誓ったのだった。


 ◇◆◇


「じゃーん!」

「ここどこ〜?立派なレンガ造りだけど」

「ギルドでーす。ここで登録しましょう!」

「うん」


 ドアを開けると中はかなり広く、男女色々な人がいた。みんな普通の人間なようだ。エルフとか獣人とかは見当たらない。


「いらっしゃいませ」


 奥の方にカウンターがあり、受付嬢らしきお姉さんがいる。


「彼のギルド登録をしたいんです」

「なるほど。…失礼ですが、異国の方ですか?」

「はい。黒髪はやっぱり珍しいんですか?」

「ええ、あまり見ませんね。では、ギルド登録ですが」

「はい」

「ギルドには約5つの部門が存在します。冒険者、商人、技工、闇、傭兵。掛け持ちも問題ありません。ですが、本職を決める必要性があります。何がいいですか?」

「まずそれぞれの説明を聞いたら?」

「そうするよ」


 受付嬢によると、商人以外の部門はすべて依頼で成り立っているらしい。依頼を受け、成功すれば報酬がもらえる。シンプルな制度で、国民の九十九%が所属しているらしい。残りの1%は、何らかの罪を犯した者だそうだ。


「ふうん。具体的な依頼はどんな感じですか?」

「そうですね。冒険者だと魔獣や魔物の討伐、薬草や鉱石の採取といったところです。技工は、革製品から金属、防具や武具まで、作成や修理の依頼が出ます。闇は暗殺や情報収集、窃盗に裏工作。裏の仕事全般、といった感じです。傭兵はそのままですね。冒険者とは違い、各国の戦争などに出ます。それ以外にも、護衛の任務などがあります。護衛に関しては、冒険者に出されることもありますよ。商人は特殊で、主に情報交換の場になります。また、新興商人の手助けも行っています」

「なる程…。あれ、ギルドって、この国だけの組織ですよね?」

「いえ、他のどんな国にも同じように存在します」

「そうですか…。では、とりあえず冒険者と、技工…と、闇も一応。傭兵もお願いします」

「商人以外は全てですね。かしこまりました。では、手続きに入りましょう」


 受付嬢が紙を取りに向かった。


「ちょっと多いんじゃない?」

「大丈夫だよ。いきなり依頼を抱え込みすぎなければ」

「ふうん。そういえば、技工って、そんなことできるの?」

「金の魔法を覚えたからね」

「そうなの。ん?覚えたって、どういうこと?」

「君と別れたあと、森でね」

「そ、そう…」


 ランは困惑しているようだ。と、その時、


「ラン様!」


 先程の門番…ではなく、執事が入ってきた。


「あら、じい。遅いわね」

「いやいや…」


 あなたが速すぎるんですよ、と呟いて、執事は二胡に向き直る。


 じーっと観察し、執事が出した結論は…。


(…めっちゃ美形じゃん!)


 だった。

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