第8話 旅支度
「すごい似合いますね」
「いや女物だよ。俺ノーマルだから。そういうこと言われても嬉しくないから。普通の人に言ったら失礼だからね?」
「え?」
「うん。いいから着替えをもってこい」
静かな怒りを感じたのか、フェンリルはすぐに別の服を取ってきた。
「いいじゃんこれ。動きやすい」
元々着ていた白いTシャツに、ベージュのズボン、黒い上着を羽織った。上着は、どことなくパーカーに近い雰囲気だ。
「うん、これでいいね。あ、このズボン剣を2つ差せるじゃん」
「ええ。どちらもかなりいい服ですよ。気に入っていただけましたか?」
「最初からこれで良かったのに」
二胡はすっかりご機嫌のようだ。
「あ、そうだ。鞘がほしいんだけど、なにかいいものない?」
「でしたら、こちらに大精霊の木を使った鞘があります。盗難防止になりますよ」
「盗難防止?」
「ええ。盗まれないようになるんです」
「ふうん」
『盗まれても御主人様が死ぬまで主は変わりませんよ?』
「盗まれても俺以外に主になるやつはいないぞ?」
「しかし、調度が見事ですから、万が一ということも」
「たしかにそうだな。まあ、鞘があればいいんだし」
そういうわけで、白い鞘に聖剣を、黒い鞘に魔剣を収めた。
「あとは防具とか…」
「いらないよ。じゃあ、ありがとね」
「え?あ、はい」
二胡はあっという間に森を抜けた。
また砂漠を歩いていると、聖剣が言った。
『あんなあっさりしていてよかったんですか?』
「変な未練が残るよりいいでしょ。さあ、行くよ〜」
『不眠不休はやめてくださいね』
「はいはい」
適当な返事をした二胡だったが、意外にもちゃんと休息をとった。
やがて日が暮れる頃、ちょうどよい洞窟を発見した。しかも、少し凹んでいる程度で、奥は続いておらず、危ない同居人もいない。伊達に運カンストしていないということだろう。
「よし、ここで寝よう。あ、そうだ。聖剣、結界の貼り方教えてくれないか?」
『そんなに難しくないですよ。魔力でかまくらを作るイメージでやってみてください』
早速二胡がやってみる。意外と簡単なようだ。
「ホントだね。じゃあ、ご飯にしよう」
そう言って、二胡がランダムに取り出したのは…見るからに毒々しい色をした、青いきのこだった。しかしそこは真田二胡、なんのためらいもなく口に運ぶ。そして…。
「美味しい…!」
感動した。普段から人を見た目で判断しない二胡だが、本当にそうだと実感した。
青いきのこは、あっさりとしていて、それでいて旨味が強い。そこにかすかな甘みが絶妙なバランスで共存している。一言でいうと、神がかった美味しさだった。
この日、二胡の好物に青いきのこが加わることになる。
「さて、寝るか。…あれ?ベットとかどうしよう」
『野宿じゃないんですか?』
「別にいいんだけどさ。あったほうが良くない?」
『しかし…』
あたりを見回すと、丁度いいもこもこした草(?)が生えていた。そのふわふわを摘み取って、魔力の膜で覆う。
「うわ…。すごい気持ちいいよ、これ!」
『いいですね。じゃあ、寝ましょうか』
その日、久しぶりに夢を見た。地球だと夢を見るのは眠りが浅い時だったが、異世界ではどうも違うらしい。
ちなみに、二胡が見たのは青いきのこに囲まれる夢である。
そして、朝がやってきた。
「ふわあ〜。おはよう、聖剣」
『おはようございます〜』
『あ、ご主人さまおはようございます。昨日はちょっとあの、記憶がないんですけど、何があったんですか?』
「せ…」
『はい?』
「聖剣が元に戻ってる!」
『…え?聖剣になんかあったんですか?』
『いや〜、ちょっとびっくりしちゃってね〜。御主人様と仲良くなれてよかったです〜』
『いやいやいやいや。待って。何があったの?』
その後、魔剣に懇切丁寧に今までの出来事を教えること三十分。
魔剣がフリーズした。
「起きろ」
流石に堪忍袋の尾が切れた二胡が冷たい水(魔法製)をぶっかけると、フリーズしたのが元に戻った。
「うん、以後これにしよう」
二胡の言葉に、魔剣は二度とフリーズすまいと誓った。
その日、どうも大量にあったらしき青いきのこを食べながら、砂漠の中を走っていくと、やがて街らしき所についた。
「おお〜。立派な門だな〜」
『この街は久しぶりですね』
『魔剣来たことあるんだ〜。ここは初めてだな〜。なんていうんだっけ〜?』
「え〜っと、ネ…なんとか?わからないな」
そんなことを言いながら進んでいくと、門の前に番兵らしき人がいる。
「ギルドカードを提示しろ」
「ギルドカード?持ってません」
「何?そんなはずあるまい。まさか、罪人か!?」
早速問題が起こりそうな予感である。しかし、そんなことよりも、魔剣には違うことが気になっていた。
『ご主人さまが、敬語を使ってる…』
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