第一次大戦

第34話 はむきち、激しく後悔する

レイム君の部屋はもぬけの殻であったが、机上に置き手紙があった。


「校長室に居ます」


何故彼が校長室に居るのか、その理由など、はむきちに知る由もない。

しかし、どのみち会えば解ることだ。


そう思って校長室への転移を試みたはむきちであったが、一瞬気を抜いたせいか、激しい自責の念に駆られ、過呼吸に陥った。


先程見た映像は、魔王国にクーデターが発生したことを示唆している。

しかも、クーデター発生と同時に魔王国軍は人間国への侵攻を開始したのだ。

何者かが組織的に用意周到な計画を実行したに違いない。


はむきちはここ数日、羽アリさんシステムで魔王の動向を観察していた。

彼は国民に愛される温厚な君主で、人間国に対して戦争を仕掛けるような仕草も一切無かった。

故に、はむきちは勇者として彼を討伐すべき理由も必然性も感じていなかった。

王族であるレイム君を一人前に鍛え上げ、彼を大使として立てれば、魔王国と人間国は新たな友好関係を築けるだろうと、勝手に確信していた。


確信の根拠は、己の傲慢。


そもそも、人間国に重大な危機が迫っている、何かしらの兆候があって「勇者召喚の儀」は行われたはずだ。


王女が儀式を行ったなら、詳細を彼女に聞く機会は幾らでもあった。


しかし、王女様とイチャコラするのに夢中で、はむきちは勇者の使命とか完全に横に置いていた。


更に、己の膨大な魔力量、全言語自動翻訳スキルの破壊的なチート感、全属性魔法を扱えるという万能感や無敵感が、はむきちを本物のポンコツにしてしまった。


はむきちには油断があった。

もし人間国内で誰かが死んでも、羽アリさんシステムで死者を捕捉出来れば、己の蘇生魔法で生き返らせる事が可能であり、最悪の事態に陥っても、それが保険として担保されているのだと信じていた。


しかし、ドラゴンの炎で建物ごと蒸発してしまった死者を、どうやって捕捉出来るのか、はむきちには全く想像出来ない。

実際はむきちは、今のところ誰も蘇生できていない。


そもそも、魔王国で発生したクーデターを、未然に防げていたならどうであろう。


勇者の使命は魔王討伐だから、魔王を常時監視していれば完全な対策になると、はむきちはそう思い込んでいた。


それでいながら実際は常時監視すらしていなかった。時々魔王周辺を覗き見て、様子見していただけだ。


『そもそも、女神様にあれこれ相談しておくべきだった』


幾らポンコツ女神様でも、それでも、そうすべきだった。


はむきちは、既に現在進行形の大虐殺について、大いに責任を感じていた。


しかし、今自分が動かなければ、早々に人間国は滅亡するのだろう。


はむきちは自身に鎮静とエクストラヒールをかけまくり、過呼吸や不整脈の症状を終わらせた。


『後悔は後だ。今はやるしかない』


はむきちは校長室に転移した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る