第31話 はむきち、下心満載で王女の寝室に再訪する

はむきちはドキドキワクワクしながら夜を待った。


時間を持て余すと、全身に浄化魔法をかけてみたり、再度人型に戻るべく全身に魔力を通してみたりした。

性的な興奮が、変身の為のトリガーかもしれないと思い、様々に妄想を巡らせたりもした。

しかしどうしても人型への変身が出来ない。

詳細は不明だが、もしかしたらレイン王女に直接触れる事が変身の為の鍵なのかもしれない。

あれやこれやと思いを巡らせながら、ようやく夜となった。

はむきちはレイム君に軽く挨拶をして、ニコニコと飛び跳ねるように王女の元へと転移した。

昨晩の展開を再現したら、多分人型に戻れるはずだ。そして、おそらく王女もそうなることを願っている。

はむきちにはそのような予感があり、その後の展開について何処までも楽観的であった。


「王女様、お招きにより参上致しました」


昨晩と同じように、寝室の枕に転移の為の魔石が置かれていた。

魔石の上に転移したはむきちが、紳士的に一礼する。


その時王女は鏡台の前で髪を梳いていたが、手を止めるとはむきちに優しく微笑み、軽く会釈した。


「今晩も訪ねて下さって本当にありがとう。とっても嬉しいわ!」


「もちろん、私も嬉しく思います」


はむきちが答えると、王女は急いでベッドに近寄り、布団の上にストンと座り込んだ。


「はむきち君…大好き!!」


部屋に呼ばれたのは建前上、錬成場への集合時間を確認する目的があったはずだ。


しかし王女はその件を後回しにして、はむきちを抱き上げると、愛おしそうに頬擦りした。


その後王女は愛情一杯にモフモフし、はむきちもマッサージ感覚に夢見心地になっていった。

しかし、数分経過してもはむきちは人間に戻ることが出来ずにいた。


王女もはむきちも、どうしたら人間に戻るんだろう?と、悩み始めたのだが、正解が全く見えない。

既に昨日とほぼ同じ展開をなぞっており、変身の条件は既に満たされていると、そう思われたからだ。


はっきり約束した訳では無いのだが、二人共人間の男と女として愛し合えるひとときを期待していた。


しかしそれなのに、数十分経過してもはむきちはハムスターのままであった。


「一旦、落ち着こう」


はむきちが提案し、王女は布団に入って枕の上のはむきちを愛おしく見詰めた。


「君に会えば勝手に人間に戻ると信じてたんだけど、何故だか今日はハムスターのままだ」


「何故でしょう?でも、ハムスターの貴方もとっても可愛いし、愛しいわ」


はむきちは王女の言葉が嬉しかったが、王女の気遣いであることも承知している。何とか突破口を見つけなければと思案していると、思いがけず王女の方から提案があった。


「はむきち君が人間に戻れない理由は分かりません。けれど、昨日と今日とで比較して、必ず何かが違っているはずです。二人が見落としている、ほんの僅かな相違点が、きっと必ずあるはず…」


「うん、僕もそう思う」


「それで私思ったのですけれども、例えば、昨日と今日で最大の相違は直ぐに気付きます。昨晩まで私は純潔を守っておりましたが、今は違います。今の私は既に貴方のものです」


おお、なんとロマンチックな物言いを為さる…。


はむきちは立ち上がったまま小さく頷く。


「なのではむきち君、今日は私のメイドであるアリスを抱いてあげてください。彼女はまだ純潔を守っているので、昨晩と同じ条件になります」


「!!!!!」


はむきちはクリクリお目々を見開いたままフリーズした。

しかし、王女様は怯むことなく次の言葉を継いだ。


「勿論、正解ではないのかもしれません。それでも、第三者視点で状況観察すれば、何かしら重要なヒントが得られると思うのです」


「い、いや、王女様。言いたい理屈は分からんでもないが、僕は君に心底惚れたんだ。アリスさんではない。その事自体大きな相違点ではないか」


「確かにそうなのですが、試してみる価値はあるはずです。それに何よりも、アリス自身も願わくばはむきち君に抱かれたいと申しておりました」


『なんで!???』


はむきちは言っている意味が理解できず、ひたすら混乱していた。


その後の王女の説明によると、アリスというメイドは王国の慣例によって、生涯王女に使えることを宿命付けられ、神前契約が成された特別なメイドであるらしい。故に彼女は生涯独身を義務付けられており、自由恋愛も禁止されている。自身の全存在、全生涯を王女に捧げることを義務付けられており、有事の際は王女の影武者となる役目を担っているという事だった。

なので当然、アリスは生涯貞操を守ることが義務付けられており、唯一の例外が、王女の許可があれば王女の代身として夜の務めを替わる事が出来るという要件であった。


もしも仮に、異性と愛し合う事を知らずに生涯を終える事が、人生における大きな不幸の一つだとするならば、はむきちがアリスのお相手を務める事にも、幾分かの意味があるかもしれない。


しかし、一般的な日本人の倫理観に照らせば、全てが完全に狂っている。


「王女様、仮に私がアリスさんのお相手をして、無事に人間に戻れたとしましょう。しかし結局、私が愛しく思うのは王女様、貴女であってアリスさんではありません。最後はアリスさん一人がが傷つく事になります」


「はむきち君、もしその時が来たら私とアリスを同時に愛してる下されば良いのです。彼女は私の代身、半身のような存在です。はむきち君、貴方は私の右手は愛せるが、左手は愛せないなどと、そんな薄情な事は仰らないはずです。どうか、アリスを受け入れてあげてください」


はむきちは、王女の説明に全く同意出来なかった。

けれど、日本人の倫理観とこの世界の倫理観が違うのは、ある意味当然であろうし、仕方のないことなのだろうとは思った。

何故なら、王女の語る言葉に、それ以外の意図があるとは全く思えなかったからだ。

昨晩と同じように、彼女は真っ直ぐ自分を見て、最大の好意を寄せてくれていると感じる。


「正直、アリスさんが貴女の半身と言われても、僕にはピンときません。でも、貴女の言葉に嘘がない、その点は疑っていません。自信はありませんが、全力で貴女の期待に応える努力をしましょう」


はむきちがそう答えると、王女は呼び鈴を鳴らしてアリスを部屋に招き入れた。

アリスもまたネグリジェを着ていたが、王女の清楚な印象とは異なり、幾らか煽情的な印象を強くしている。


王女にずっと見つめられながら、アリスの指先からくる愛撫を全身に受けるのは、はむきちにとって背徳的な興奮に満ちていた。


激しくいきりたつはむきちの極小ティンコフ。


その先に、美しい二人の女性との官能的な世界が待っている。


はむきちの全身は、痺れるような興奮に満たされていた。


しかし、それでもはむきちは人間に変身することが出来なかったのだ。


小一時間が経過し、二人と一匹が万策尽きた事を自覚した時、全員がベッドに座り込んだまま、天井を見上げ、放心したのであった。


合掌。



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