第29話 はむきち、闇属性魔法を解析する

「今から、闇属性魔法の解析を始めます」


学園の放課後、全ての窓を閉じた暗い図書室内禁書庫に、闇魔法部2名と一匹が丸テーブルを囲み座っている。

王女、王子、ジャンガリアンだ。

テーブルには燭台が一つ置かれ、灯りはこの蝋燭の火ばかりである。

秘密結社の秘密集会さながらであるが、今の人類にとって未知なるものとなってしまった闇魔法の解析となれば、第三者から見ると秘密結社の秘密集会そのものに違いない。


雰囲気は大事。

はむきちは無言で頷き、それから言葉を継いだ。


「僕がかつて居た世界には闇属性魔法の一級資料が存在していた。それらの資料は総じてラノベと言われていたのだが、資料によって呪文や術式が異なっている事が多く、体系化されていなかった。つまり、僕の知る闇属性魔法とこの世界の闇属性魔法は基本的に別物だ。僕の知る闇属性魔法が全てこの世界で使えるとは思えないし、逆に僕の知らない闇属性魔法がこの世界には存在するかもしれない」


「それで、どうやって闇属性魔法を解析するのでしょうか?」


レイム君が子供らしからぬ明瞭さではむきちに質問する。


「僕は全言語自動翻訳スキルを持っている。僕は僕の世界の言葉を使って呪文の詠唱を行うが、僕のスキルによって君達にはこの世界の言葉で詠唱しているように聞こえるはずだ。その詠唱呪文をできるだけ正確に聴き取ってノートに書き留めて行ってほしい。最終的な検証段階に於いてはレイム君のレベル不足で発動しない可能性もあるが、とにかく今は、基礎資料としての呪文一覧を作成していこう」


「ええ、分かったわ」


「僕も分かったよ。でもこんな方法があるのだったら、禁書庫の資料を探す必要があったんだろうか?」


「もちろんあったさ。これから試す方法は、インチキみたいなものでね、真の勇者たる君に相応しくない。だから君には自力で闇魔法の呪文を獲得して欲しかった。けど、状況を見るに、残りの資料を漁っても闇魔法の資料は見つかりそうもない。ここら辺が妥協点だと思うんだ。僕は君の足踏みを終わらせて良い頃合いだと思う」 


「なるほど、君がそういうなら、僕にも異論はないよ」


「ありがとう」


「それで、はむきちが詠唱する呪文を僕も書き留めていけばいいんだね。出来れば少しゆっくり目で頼むよ。長い詠唱呪文だってありそうだし」


「うむ、分かった。先に話した通り、1次資料ラノベは体系化されていなかったし、今となっては記憶が頼りだ。詠唱順にナンバリングするが、あくまで暫定的なものだ。それでは始めるぞ」


「了解!」


それからはむきちは、ダラダラと呪文の詠唱を始めた。ラノベで見た闇魔法らしきものを思い出しながら闇魔法の解説を述べているだけなのだが、今日も自動翻訳スキルが完璧な詠唱呪文に翻訳してくれるのだった。


1.体力を奪うドレイン

2.魔力を奪うドレイン

3.スキルを奪うドレイン

4.習得魔法を奪うドレイン

5.身体を奪うドレイン

6.闇を利用した無限ストレージ

7.敵の影を踏んで固定する影踏み

8.影を利用して瞬間移動する影移動

9.極大重力場を発生させ、一定範囲を完全消滅させるブラックホール

10.対象の質量を変化させる重力

11.対象範囲の重力を操作する重力場

12.精神を支配する隷属

13.無条件に最大の好意を得る魅了

14.精神を迷走させる混乱

15.知性的な判断力を奪う混沌

16.敵の視力を奪う完全な闇

17.相手の悪意を見抜く真贋判定


「とりあえず以上だ。まだ他にもあったような気もするが、それはそれ、思い出した時にまた教えるよ」


「闇魔法なだけに、どれもみんな闇な感じで素敵ね!!」


魔法ヲタクな王女が恐ろしくテンションを上げている。

レイム君は、魔法が使えない無能と言われていたのに、突然可能性の扉が開かれて慎重な表情だ。


「僕が真の勇者になるとはむきちは言ったけど、攻撃魔法らしいのはブラックホールしかないみたいだね…。

混乱や混沌は戦闘時に相手を弱体化させるだろうけど、大軍が相手だとあまり役に立ちそうにないや」


「レイム君!なるほど賢明な分析だ!!しかし大丈夫!!今から君の魔力量を一万倍程度に拡張する!!!

君の魔法効果範囲、あるいは効果量が単純に1万倍になると思ってくれたまえ!!!」


「うぇっ!?そんな方法ある訳無いでしょ。あったとしてもそんな事をしたら身体がバラバラになって死んじゃう気がするよ!!!」


「勿論、単に魔力量増やしたら君はバラバラになっちゃう。だからエクストラヒールを多重展開して、君の身体を継続的に安定させる。大丈夫。さっき自分で実験したけど、何の問題もなかった」


「問題無かったって、そもそも魔力量は簡単に増やせるもんじゃないでしょ!!」


「うん、確かに簡単じゃない。かなり複雑で長い術式になってる。でも大丈夫。僕のスキルを使えば、一週間必要な呪文詠唱も一瞬だからさ」


「はむきち!!君は一体何を言ってるんだ!!」

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