第28話 はむきち、レイム君は心の友

要するに、僕の素性はほぼレイン王女にバレていたらしい。

それどころか、メスハムスターカメラでプライベートの一部を覗かれていたという。

それってどうなんだと思わなくもないが、そのおかげで僕は会う前から王女様からの信用と信頼を得ていたらしいので、結果オーライなのだ。


僕はアリスさん経由で、女神様から使わされた使徒だと王女に自己紹介していた。それは勇者の素性を隠蔽する為だったが、女神様からの指示によって神界から地上界へと降りてきたのだから、女神様からの使徒というのは丸っきり嘘という訳では無い。


冷静に考えたら、『僕はアザール国第一王子であります』というレイム君への嘘のほうがより深刻だ。

…そんな嘘は大人が調べたら直ぐに分かる幼稚な物に過ぎない。レイム君がまだお子様だから、運良く騙せていたという訳だ。


『しかしレイム君、子供な割に普段の言動は大人びてるんだよな。

子供な割に苦労人だったから、彼が処世術を身に着けた結果なんだろうけど、実際僕は、そのところ彼を信頼してるというか、年齢差あるはずなのに、対等な親友って気分なんだよな…』


そんなことを思いつつ、僕はレイム君の部屋にある我が家、ドールハウスへと転送帰還した。


そろそろメイドが来るからと、王女から追い出された次第なのだが、確かにお互いにやるべき事があり、永遠にイチャイチャし続ける訳にも行くまい。


そう、はむきちは先程までレイン王女の手のひらの中で転がされまくっていた。

全方位ローリングモフモフをされながら、あれやこれやと語らっていたのである。


『しかし、楽しいひと時にも終わりは来る』


ため息をついて、はむきちはドールハウスのベッドにゴロンした。


どうせ王女にバレてるんだ。レイム君にも僕の嘘を謝っておくか…。


その後の朝食タイムで、はむきちは自分がアザール国とは無関係で、自分は勇者召喚で転生した異世界ハムスターだと告白した。


「うん、おおよそ分かってたよ」


「え!?

なんでや???」


七歳の子供すら騙しきらん、己の無能さよ。


「僕は魔法が使えない代わりに直感が鋭くて、特に人間の悪意とか、中身のない表面的な言葉を見抜けるんだ」


後日、レイム君の直感は闇属性の真贋判定魔法と判明したのだが、この時点ではレイム君にその自覚はない。


「レイム君、つまり、嘘を見抜けるでありますか?」


「うん、見抜けるよ。でも正確に言えば、悪意を見抜けるんだ。はむきちは僕に嘘をついたことはあるけど、僕に言わせれば罪のないどうでもいい嘘さ。むしろ、はむきちは僕と親友になる為に善意で嘘をついたはずだ。時々、君の言葉にほんの僅かな悪意を感じたよ。だから嘘かなって気付いたけど、話全体は善意に満ちていたから、それならそれでいいかなと。感覚的な物だから、嘘を完全に把握していた訳でもないしさ」


「まあ確かに、君を貶めるために、悪意から嘘をついたという事は一度も無いな…」


「うん、そうだよね。それに、君が勇者召喚で来たのは思い至らなかったけど、事実神界で女神様と話してからこの世界に来たのだろ?広義に於いて、はむきち君が女神様からのメッセンジャーとなっている事も確かなはず。その点に於いても君は嘘をついてないんだよ」


そう言われてみれば、あのポンコツ女神様は『双子の王子伝説について、大昔の事はよく覚えてない』と、神様らしからぬ無能な返答をしていた。


つまり、この世界の魔王という存在はそもそも倒すべき絶対悪ではない。今のところ、その可能性は高い。

で、あるならば勇者召喚で求められる勇者とは、この世界の場合に限り単なる武人ではなく、むしろ調停者というのが相応しい資質なのかもしれない。


なるほど、はむきちには大嘘で状況を乗り切ろうとしてきた自覚はあった。

が、レイム君視点で善意的に解釈すると、僕の虚言も丸っきり嘘でもないという事なのか。


うーむ、何となく分かるような気もするが、詭弁にも聞こえる。結局のところ、ようわからん。


「はむきち、きっと君が思うより単純な話なんだ。君は出会った時から今に至るまで、僕にとって良き友人であろうと常に努力し続けてきた。いつも僕の側にいて、僕が日々笑顔で居られるように助けてくれた。その思いが真実であることを僕は知ってるし、疑ってない。僕には、その思いが見えてるんだ。だから、君のついた罪のない嘘は、僕にとって本当にどうでも良かったんだよ」


そう言われてはたと気づいた。


彼は無属性な無能王子と周囲から陰口を叩かれて生きてきた。王子という立場から、表面上は大事にされたかもしれないが、彼らのその内面に大きな悪意があるのだとしたら、彼は常に悪意に囲まれて生きてきたという事になる。

それがどれほど彼を傷つけた事だろう。


「思うに、悪意が確実に読めるとしたら、それは随分難儀やったと思う。確かにそれは僕にでも分かるな」


「うん、とても難儀やったよ」


「君の不遇な状況を理解していたつもりだったが、今日こそ本当の意味で理解した。うむ、それでは早速今日から君のレベル上げを激しく急ぐ事にしようじゃないか!!

君をバカにした全ての奴らを、二人で思いっきり見返してやるんだ!!」


はむきちはそう言うと、まん丸お目々をキラーン!と光らせた。





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