第27話 結論として、王女はやはり只者ではなかった

「この映像は、勇者召還直後に対象者を自動捕捉認識した後に、画面に対して被写体が80%の大きさで撮影されるように術式が組んであるの。具体的には魔法陣の各点から集束させた光を魔石板に転送して…」


はむきちが魔法陣に転送された時、女神は光のカーテンで彼を見えないようにしてからケージへと転送した。

それはほんの一瞬の出来事だったはずだが、魔法の術式による自動撮影であれば撮影可能だったのだろう。

事実として、映像はそこに存在している。


「はむきち君はご存じないかもしれないけど、この世界には勇者とお姫様が大恋愛の末に結ばれる、そんなお伽噺が幾つかあるの。しかもその中には、勇者が敵の呪いで動物に変えられて危機に陥るエピソードもある。その時勇者を救うのが、魔術に秀でたお姫様なのよ」


「禁書庫にはそんな物語は見なかったけれど、有名なお伽噺なら一般書架だろうから当然か…」


「私は、魔法陣に立つ貴方の映像を見てピンときたわ!あなたこそ真の勇者!!そして貴方の危機を救うのが私の使命!!そして私たちはきっと、大恋愛の末に結ばれる結ばれる運命なのだわ!!」


…そう言われたら幾らか罪悪感も和らぐけど、お姫様が勇者に憧れるのはお伽噺としてのロマンスに過ぎないのであって、現実は別だと思うんだがなぁ…。

それに、大恋愛が始まる前に結ばれてしまったからなぁ…。

やはり地味に罪悪感が募る…。


王女がテンションを上げると、はむきちのテンションは下がる、そんな構図となっていた。


「はむきち君が魔法陣から直ぐに転送されちゃったから、私は魔族の妨害と思って、はむきち君をあちこちさがしたのよ。だから、弟から突然ドールハウスが欲しいと言われたとき、もしかしたら?って思ったの」


「そういえばレイム君が、ドールハウスを借りる時、借りる理由を言わなかったけど、直ぐに貸してくれたって言ってた気がする…」


「ええ、それでね、ドールハウスにメスのハムスターのぬいぐるみを入れておいたの。私は生産系魔法も使えるから、材料とイメージさえあれば直ぐ作れるの♪」


「ま、まさか、ぬいぐるみに特別な意味があったのか?」


「ええ、勿論!!

貴方は何故か気付いてないみたいだけど、この世界にハムスターは居ないのよ。ネズミは居るけどね。だから、ドールハウスの中にハムスターのぬいぐるみが沢山置いてあるというのは、私が貴方の映像を見たことがあるという事を伝える為だったの。貴方を見た者でなければ、ハムスターのぬいぐるみは作れない。貴方はわざと自分が勇者である事を隠していたようだったから、私もそこは察して遠回しに、私は味方だって貴方に伝えたかったのよ!」


「まさか、ぬいぐるみハーレムにそんな意図があったとは…」


「それと、ハムスターぬいぐるみには魔法によるカメラとマイクも付いてるの。おそらくは、はむきち君の羽アリさんとは下位互換の術式が組んであるはず」


ってことは、僕とレイム君の会話は全部筒抜けだったのか!?

もしかしたら、カメラ映像だと認識阻害の魔法も無効化されてたのかもしれん。


「だから、はむきち君が弟に嘘を付いてる所は残念に思ったけれど、それ以上に、はむきち君が弟の為に、毎日一所懸命助けてくれたり、庇ってくれたりしてくれてるのは見れてとても嬉しかった。

まるではむきち君は、勇者として魔族と戦うよりも、レイムの親友として学園生活を思い切り楽しむ事が一番大事なのかなって感じたよ」


ええ、正直その通りであります。


「それでいて、その気になれば簡単に魔王をやれてしまうのでしょう?」


まあ、実際やってみないことには大きな事は言えませんが、多分行けると思っとります。


「それだから、昨日禁書庫に突撃した時点で、私、相当はむきち君に入れ込んでたの。桁違いの魔術師であり、最強の勇者。それでいて戦いよりも平和な日常を誰よりも愛してる。あまりにカッコよくて、私は今でも気が狂いそうよ」


え?本当???


はむきちは、恐る恐る顔を上げた。


そこにあるのは優しく美しいレイン王女の笑顔。


『あかん、ほれてまうやろー』


はむきちは顔を赤くして、再び顔を

伏せたのであった。

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