第26話 レイン王女は只者ではなかった説

はむきちは手足が短いので、人間らしい土下座が出来ない。

しかし彼なりの真心を込めて彼は王女に向かって土下座した。

ほぼうつ伏せにしか見えないのだが、相手に殺されても構わないという覚悟を、その体勢から伺う事は出来る。


すると、目を閉じたまま、レイン王女がクスッと笑った。


「偉いぞ、はむきち君」


突然砕けた口調になっている。

どうやら王女は寝たフリをしていて、はむきちの独り言も全部聞いていたようだ。

はむきちは不意をつかれてズキュンと胸がときめいた。

王女は目を開き、はむきちに優しく語りかけた。


「昨晩の事は、私も悪かったと思ってるよ。獣人族が人間の異性に興味が無いのは有名だから、正直油断もあったけど、もし貴方にその気持ちがあれば、ゆくゆくはそうなってもいいかなって、心の何処かでそう思ってた。だからネグリジェ姿で貴方を寝室に招いたのよ。勿論、貴方が突然全裸の人間になったから、びっくりして大声をあげそうになったけど、ホントは恋人らしい逢瀬を少しづつ重ねてから…ってね」


「いや、昨日の事は僕が全面的に悪かった。君が擁護してくれるのは有り難いが、自分が君に『魅惑』の魔法を使ったのは間違いないのだ。そのことについて全面的に謝罪したい。本当にすまんかった。僕はどんな罰でも受けるつもりだ」


はむきちは思い切り額を地面にぶつけている。


「頭をあげて、はむきち君。人間の貴方は見た目も悪くなかったし、正直初めての相手が貴方で良かったなって思ってるの」


「ええ!?

そ、そんな事ってあるですか!?」


はむきちは驚愕して顔を上げた。


「はむきち君はご存じないかもしれないけど、王族の結婚はほぼ政略結婚で、恋愛感情は二の次なの。それでいて、男の子を産まないと役立たずのレッテルを貼られてしまう。行為の回数も大事だから、男性を悦ばせるテクニックを若い頃からしこまれるのよ。王族の義務として許容はしてるけど、常に絶望してたの。特に、私の場合家柄で相手を決められてしまうから、自然と候補者も限られてくる。本当に絶望的なのよ」


「そ、それは…心中お察ししますが、だからといって僕がお相手でも良いというのは、正直理解に苦しみます」


はむきちは再び額を地面にこすりつけた。


「昨日の話の続きだけれど、貴方は魔王を簡単に殺せる、少なくともその能力はあるのよね?」


「はい、実際に試す機会はありませんが、おそらくは容易く殺ることができます」


「私の知ってることをストレートに言うわよ。獣人族のアザール国、第一王子は熊だったはずだわ。ハムスターじゃない。何故知ってるかというと、結婚相手の候補者リストに上がった事があるのよ。勿論人族じゃないからリストの最下位だったし、反対意見が多くて直ぐにリストから外されたけどね。とにかく、はむきち君は私の弟を騙してる」


『ヤバッ!!

王女には最初からバレてたのか!?』


はむきちは土下座したままガクブルである。


「もう一つ、私の魔法ヲタクは伊達ではないの。そもそも変わった人間だと思われたくて始めた魔法研究だから」


『???』


「王女とはいえ、変人と思われれば見合い話を減らす事が出来るのよ。割りと効果的にね」


「…確かに、その美貌と魔法ヲタク成分は、妙に相容れないというか、違和感あるなとは思いました…ヲタクというには王女はあまりに美しすぎる。いや、美しすぎるヲタクも正義とは思いますが」


「はむきち君もお上手ね!…と、冗談はさておき、今回の勇者召喚の儀は私が行ったのよ。で、その時の記録映像が魔石に残してあるの。ほらこれ」


王女はA4サイズ程の魔石板をはむきちに見せた。

するとそこには、魔法陣の中央にキョトン顔で立つはむきちがいた。


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