第25話 若きはむきちの悩み
はむきちはあれこれと悩み続けた。
特に深刻だったのは、彼が王女に中出ししてしまったかもしれないという点だ。
もしも王女が妊娠していたら?
はむきちは王女に浄化魔法をかけようとしたが、しかし詠唱を中断した。
浄化魔法を使うのは男としてどうなのか、はむきちにもはむきちなりの矜持があるのだった。
山田氏が射精しようとした瞬間、山田氏ははむきちへと戻ってしまった。
結果的に、山田氏は中出しに失敗している可能性が高い。
それからはむきちは、弾かれるようにポーンと転がり、王女の股間から離れていった。
そしてそのまま気を失った。
目覚めた時、はむきちは枕の上に居た。
はむきちが枕まで移動したのは、王女が運んでくれたからであろう。
その時、王女の心境はどうだったのであろうか?
魅惑の魔法効果は山田氏に対して発動していたはずだ。
王女は気絶しているはむきちを見て、我に返っていたのかもしれない。
もしその瞬間、彼女が怒りに満ちていたなら、はむきちはその場でひねり殺されていただろう。
魔術ヲタクの王女には容易かったはずだ。
であるならば、今となってあれこれと誤魔化すのは下策であろう。
直球土下座が正解のように思えてならない。
心を鎮め、瞑想するはむきち。
そう、彼が人間だった頃、うだつの上がらない日々を忘れさせてくれたのは異世界転生物のラノベであった。
異世界転生物の主人公は、様々なパターンが日々生み出されていて、その有り様は千差万別であった。
そんな中でも山田氏が愛した作品群は、スローライフ物である。
天から特別な才能を授かりながらも、それは国を守る為の力ではない。スローライフ物では、小さな村の小さな幸せ、ささやかな日々の暮らしの中で、突発的な大事件を未然に防ぐとか、生活の苦労を解消して、日常的な生活水準の向上を成し遂げるとか。
そんな穏やかな日々の中で、村一番の美少女に見初められ、自然に恋を育むのだ。
そもそも、レイム君に勇者の使命を押し付けてしまおうと画策した内心の思いは、せっかくの異世界転生を、勇者ミッションのせいでぶち壊しにされるのが真っ平ゴメンだったからだ。
勿論、異世界転生物の勇者冒険譚が大嫌いという訳では無いし、憧れが全く無いと言えば嘘である。
実際、女神様と最初に話した際には、勇者というワードにワクワクした。
しかし結局のところ、異世界転生者として思いのままに生きられるなら、勇者冒険譚よりもスローライフ展開に憧れるのだ。
それが内心の本音なのだ。
レイム君に勇者役を押し付ける、それは妥協的折衷案であり、完全なスローライフではないが、少なくともレイム君よりは緩く生きられる立場が約束されているのだ。
双子の王子伝説についても、禁書庫にある資料を繋ぎ合わせれば、歴史的経緯に於いてはまず大きな間違いは無かろう。しかしだからといって、今現在の魔王が人類に対して友好的である保証は全く無い。しかしはむきちは、多分今でも友好的だと思うよ?という希望的観測を、学園長やレイム君に押し付けた。
その方がスローライフっぽい展開に繋がるんじゃないかと、彼は私心からミスリードを行ったのだ。
そしてミスリードであっても、膨大な魔力量と全言語自動翻訳スキルの有能性によって、虚偽を真実にねじ曲げる事すら可能だと彼は感じていた。
「入学式で自分の存在がバレた時も、忘却魔法は使わなかった。ちっこいハムスターであれ、守るべき矜持があるのだ。故に、ここは直球土下座一択。それ以外にあるまい。結果殺されるかもしれんが、どうせあれこれ誤魔化した先に真のスローライフは無かろう」
彼は彼なりにカッコつけて呟いた。
カッコつけておかないと、ブルってしまうからだ。
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