第23話 はむきち、夜這いをかける(嘘)

レイン王女乱入というイベントは発生したが、本日の部活動は通常の成果をもって無事終了した。


即ち、闇魔法の資料を発見したものの、それらはあくまでも歴史書であって、呪文や術式など、使用に関する具体的な情報は皆無であった。


反面、双子の王子伝説に関わるはむきち仮説の正当性を裏付ける資料は、断片的ながらも幾つか見つかっている。


そして所謂、都市伝説級オカルト分野資料も幾つか発見され、彼らの好奇心を十分満足させた。


「満足はしてるけど、部活動としての成果はゼロなんだよな。闇魔法の呪文を発掘するのが本来の活動目的なんだからさ」


レイム君がぼやくとはむきちが答える。


「まあまあ、まだ禁書庫の資料は半分も見てない。まだまだこれからだよ」


すると、二人の会話に王女が割って入った。


「それはそうとはむきちさん、貴方は女神様から使わされた使徒様という事ですが、詳細について幾つか確認したい事があります。夜に王城の私の部屋まで来て頂けますか?」


どうやら王女は、はむきちが転移魔法を使うことに確信があるらしい。

はむきちも、察して返答した。


「転移魔法はマーカーがあると正確になりますので、どうぞこちらをお持ち下さい」


はむきちは、一般に流通している銀貨を異空間から取り出し、王女の前に置いた。


「表面からは見えませんが、内部に魔法陣を書き込んであります」


硬貨の内部に魔法陣が描いてあるとか、意味不明な説明なのだが、はむきちの魔術スキルでは可能なのだろう。王女は頷いて銀貨を取り上げた。


はむきちは説明を続ける。


「硬貨の裏表は関係ありませんので、適当な椅子の上にでも硬貨を置いて下さい。その真上に転移しますから」


「分かったわ」


確かに彼女はそう返事をした。

それなのに、何故かコインは王女寝室の枕の上に置かれていた。


夜になって、そろそろ頃合いかと思って転移したはむきちであったが、彼は椅子の上ではなく、フカフカ枕の上に転移した。


こんなことなら羽アリさんカメラで室内をチェックしてから来れば良かったと思ったが後の祭りである。

はむきちの能力値が如何に規格外であっても、迂闊な性格が彼を無能にしているという、ほんの一例である。


はむきちの眼前には、既にネグリジェに着替えてベットに入っている、王女の顔が間近にあった。


「はむきちさん、ようこそ、いらっしゃい」


「お、おう!」


この人なんで寝てるの?と、思ったが、動揺したら負けだと思い、はむきちは努めて平静を装った。


王女は羽毛布団の中から自分の片手を伸ばして、はむきちの頭を撫で撫でし始めた。

はむきちが可愛くってたまらんという表情だ。

はむきちは、けして情に流されてなるものかと、会話に努めた。


「王女様、この度はどのようなご用件で私を呼ばれたのでしょうか?」


「…えっとね、校長室に置いてある地図の事よ。」


「は、はぁ…」


「面倒だから、単刀直入に訊くわ。はむきちさん、貴方、実は簡単に魔王を殺せるのではなくて?あの地図を構成する魔法の構造を検討すると、そうとしか考えられない」


そう言いながら、王女の指先ははむきちの全身を愛撫する。


はむきちは、その愛撫に朦朧としたせいか、安易な返事をしてしまった。


「流石王女様、よくお気づきになられました」


「あっさり認めるのね」


「勿論。しかしこれはレイム王子にもご説明差し上げたところです。私はあくまでも女神様からの使者、人類の共助者であって、その領分を超える事は、女神様より禁じられております。具体的には、レイム様をお支えすることが、私の成すべき使命です」


レイム君に吐いた嘘を、レイン王女にも重ねるはむきち。

しかし、はむきちは既に内心それどころではなかった。

王女は、あくまでも可愛いハムスターをモフモフしたいという心境なのだが、はむきちは精神的に人間だった当時の感覚に戻っており、ネグリジェ姿の王女に激しく欲情していたのだ。

昼間の件もあって、今までになく容易にスイッチが入ったのかもしれない。


『あかん、このまま身体をまさぐられてたら、色々とあかん!!』


はむきちが身を硬くして、精神集中によって何とか欲情を鎮めようと念じたその瞬間、おそらく0.1秒も掛からずにはむきちは人間の容姿へと変身した。


しかも、その姿は獣人ではなく、明らかに人間、山田氏そのものであった。

言わずもがな、激しくそそりたつティンコフも、そのままであった。


突然、成人男性の裸身を見せられ、王女は啞然としたが、直ぐに悲鳴をあげた。否、悲鳴をあげたが、声が裏返ってしまい、言葉にならなかった。息を激しく吐き出して、咳き込む一歩手前である。


『鎮静、そして魅惑』


はむきちは、反射的に王女に魔法をかけた。

単純に『騒がれたらまずい、なんとか王女を味方につけないと』そう思っただけなのだが、欲情していたはむきちの状況を反映してか、魅惑の魔法は王女までをも欲情させてしまった。


はむきちが何故獣人ではなく人間のような変身を遂げたのか、はむきちにも理屈が分からなかった。急な変身はたまたま彼をベッドの上に立ち尽くすような姿勢にさせたが、既に寝ていた王女はモロに彼を見上げる形となってしまい、生まれて初めて目撃する怒張したティンコフに、声ならぬ悲鳴をあげたのだった。

しかし魅惑に落ちた王女様は、半身を起こすと迷わず彼を抱きしめた。結果的に彼女は山田氏の股間に顔を埋めていたのであるが、男性経験の無い彼女に性的な意図は全く無い。

大好きな人に抱きつきたい、ただただそれだけの思いであった。

しかし山田氏にとっては、激しいまでの性的刺激である。


『ぅおおおお、これはあかん!!余計にあかん!!』




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