第22話 レイン王女登場

レイム君とはむきちが、熱を上げて禁書発掘を続けていると、突然背後から声を掛けられた。


「こんにちは、随分と面白そうな本を読んでいるのね」


振り向くと、そこにはレイン王女の姿があった。

はむきちは王城で何度も彼女を見ていたが、魔法で存在気配を完全に消していたので、会話を交わすのは今回が初めてだ。


はむきちはあわてて本を閉じるとその上に飛び乗り、それから臣下の礼をとった。


「はじめまして、レイン王女様。

私の名ははむきち、the、ジャンガリアン。

女神様より一命を受けて、真の勇者、レイム様に仕えております」


『the、ジャンガリアン』は、はむきちが咄嗟の思いつきで付け足したものであった。

名前の途中にtheを入れるとか、中々クレイジーなセンスである。


「はむきちさん、こんにちは。

貴方の噂はアリスから色々聞いたわ。

とっても凄い魔法をお使いになるとか!?」


レイム君が慌ててはむきちに顔を近づけ、耳打ちした。


「姉は重度の魔術オタクなんだ。本職の研究者ではないけど、最新の魔術情報に目がなくて、王女なのに冒険者ライセンスまで持ってる」


レイン王女は青と白で構成された清楚なドレスを身に纏い、王女に相応しい品格あるアクセサリーを身に付けている。

とても冒険者には見えない。

若くて美しい、王女様らしい王女様だ。


すると突然、レイン王女は皆に予想外の行動に出た。

すくうようにはむきちを抱き上げると、突然頬ずりを始めたのだ。


「それにしてもはむきち、貴方はとっても可愛い!!可愛すぎるわ!!」


そう言われるとはむきちも悪い気はしない。

魔術オタクな王女様が、自分の魔術スキルよりも、その容姿に心を奪われ、愛でているのだ。


はむきちの心は、人間だった時の自分に戻り、


『そうそう、はむきちはとっても可愛いんだよう!ちっちゃなお手々がたまらん!そして、短い尻尾がたまらなさ過ぎるんだよう!!』


と、他人事の様に共感していた。


王女は優しくはむきちをモフモフし始め、はむきちもついうっかり心地良さに身を委ねてしまった。


偶然、はむきちのティンコフに王女の指が触れた。

それは、ほんの僅かな接触であったが、はむきちは突然、激しい性欲の高まりを覚えた。


そういえば、ハムスターは平均寿命が短く、そのせいか繁殖行動はハムスターにとって重要な意味を持っている。

しかし、獣人族であるはむきちは、平均寿命も人並みだし、ハムスター並みに欲情を覚える事も無かった。

メスハムスターといたしたいと思う事もなければ、人間の女性に欲情する事も全く無かった。


今改めて思えば不思議だった。

何故ならはむきちがかつて人間だった頃、彼は彼女こそ居なかったが日々のオナニーを忘れないオナニスト、性欲の庇護者であった。

そんな自分が、性に関しては聖者の如くに達観しているとは、全くもって自分らしくない。

まるで永遠の賢者モードを体現したかのようであった。

はむきちはそのように自覚したが、とはいえ今は違う。永遠の賢者モードは終了してしまったようだ。

彼は、王女の手のひらで極小ティンコフを立たせている自分が恥ずかしかった。

故に、『冷静』の魔法で自身の平静を取り戻したのだ。


「お姉さま、お戯れは程々になさってください!はむきちが苦しそうではありませんか!」


レイム君が慌てて助け舟を出し、はむきちはようやく解放された。


「はむきちさん、すみませんでした。けれど、はむきちさんがいけないのですわ。反則的に可愛いんですもの。一瞬、魅了の魔法を疑ってしまったくらい、貴方は可愛すぎるわ」


『一瞬、魅了を疑った?それはこちらの台詞ですよ』


はむきちはそう言いかけて止めた。姿がハムスターでは様にならない。


「ところで王女様はどうしてこちらにいらしたんですか?」


はむきちはこのように言い換えて王女に尋ねた。


「貴方達の部活の顧問が決まらなくって困ってるとアリスに聞いたの。だから、私が顧問になってあげる。それで挨拶に来たという訳なの」


訳なのって、アリスさんは誰から聞いたんだ!?

そもそも王女はここの教師では無いはずだ。

顧問になるとかおかしいだろう!?


レイム君とはむきち、混沌としたが、とりあえずは飲み込む事にした。


そもそも新入生が禁書庫に入って闇魔法の研究を行う、それ自体この世界では飛び抜けてクレイジーなのだった。

レイム君とはむきちは、異常が状態化し過ぎで、まるで自分が普通だと勘違いしていたようだ。


王女が顧問、それくらいの異常が正常。闇魔法研究部にとっては、それこそが日常。


レイム君が王女に話しかける。


「なるほど、つまり姉さんが僕らのお目付け役という訳ですね。確かに僕は姉さんを心から尊敬しています。姉さんを目の前にして、隠し事が出来る自信が全くありません」


「レイム、貴方はまだ子供なんだから、素直が一番よ。それに、私が顧問になろうと思ったのはお目付け役とか、そんな理由じゃないわ。闇魔法がとても面白そうだからよ。あなた今まで無属性と思われていたじゃない?だから、貴方と魔術談義がしたいと思っても、何か嫌味な感じになっちゃうでしょう?でもレイム、これからは違うのよ!!貴方はこれから最強の闇属性魔術師になるのでしょう?凄いわ!!もう、考えただけでワクワクする!!とにかく、私も一枚噛ませなさいよ!!」


王女様なのに王女様らしからぬエキサイト振りであった。


はむきちは内心ほくそ笑んだ。


貴族に王女派、王子派とかあると面倒だなと、内心思っていたのだ。

ところが、王女自ら我々に結託すると申し出ている。

少なくとも我々が行動を共にしている間は、雑魚キャラ(家臣)共の雑音は大いに減じられる事だろう。

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