第21話 レイムとはむきち、禁書庫で唸る

入学式しきこそ注目を集めたレイム君とはむきちであったが、学園生活それ自体は意図的に自重したのか、彼らは平凡に徹していた。

最初は警戒していたクラスメイト達も、レイム君とはむきちが品行方正な紳士であると感じて、次第に打ち解けていった。

楽しい学園生活は、無事に始まったのだ。


とはいえ、闇魔法の研究を放置していた訳では無い。

部活動と称して、レイム君とはむきちは放課後になると遅夜くまで図書室最奥の禁書庫に籠もるのだ。


この部活動は、顧問が見つからない事を理由に、暫定的な部活動として認められていた。

勿論こなような前例はなく、今回は校長が特例として許可したに過ぎない。


早く顧問を決めて正式な部活動としたいのだが、今現在、闇魔法を習得した人間は皆無なのだ。学園の教師達は闇魔法に関して何も知らず、その上、生徒が飼っている謎のハムスターが闇魔法に周知しているらしい。いささか立場が無いので、教師達には近寄りがたいという心境なのだ。


『研究者としての矜持は無いのかよ』


と、はむきちは怒っていたが、そもそも闇魔法の研究に、部活動の顧問をやらねばならない必然性は全く無い。


『そんなに怒るなよ。二人で調べたほうがむしろ都合が良いと思わないか?』


相変わらずお人好しのレイム君の言葉に、確かにその通りだと納得するはむきちであった。


その日の放課後も、二人は禁書庫へと日参し、片っ端から古文書を読み進めていた。


はむきちには全言語自動翻訳スキルがあるので、どんな本も簡単に読める。

また、脳内に使用状況を正確にイメージし、言語化出来れば、闇魔法であろうと勝手に最適な詠唱が発せられ、闇魔法が発動する。

その際、意図的にゆっくりと詠唱を行えば、レイム君の耳には闇魔法の呪文が聞こえてくるはずなのだ。


レイム君は、聞こえた呪文を書き留めて、自分でそれを試してみれば良い。


最初から、禁書庫で呪文の発掘をやる必要など無かったのだ。


それを承知で、はむきちは敢えて禁書庫への日参を続けている。


理由は幾つがあるが、一つは広く禁書庫の情報を得ておきたいということ。

はむきちは、禁書庫の結界を突破して侵入する自信はあるが、コソコソやってバレるリスクを犯すよりも、正式な許可を得て堂々と調べる方が良いに決まっている。

2つ目には、レイム君を共犯者にする為である。禁書庫は知ってはならない情報の宝庫であり、その取り扱いを間違えたら、誰かに命を狙われるとも限らない。はむきちはそれらを撃退出来る自信はあるが、これから自分達が成し遂げる道程に、雑魚キャラの下らない干渉が延々と続くというのはうっとおしくて腹が立つ。故に、王子を共犯者とすれば何かと面倒を回避出来るはずだ。

最後の理由。それは、単純に禁書がやばくて読むのがやたら面白いと言うことだ。


「レイム君、これはヤバい、ヤバすぎるぞ」


「なになに?」


「これだ!『魔導具による自己研鑽』これがヤバい!!」


「自己啓発本?」


「ちゃうちゃう、魔導具化した自慰行為グッズの製造方法だ。この図面を見てくれ。恐ろしく緻密で高度な魔法陣が多段術式によって編まれ、魔導体である極薄オリハルコンの円柱から…」


「駄目だ!!

これは世に出したらいけないという直感が激しく来ている!!禁書だし!!」


「いや、イケるんだって!!」


禁書庫には、様々な禁書が眠っているのだ。



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