第18話 勇者登場
「そのような次第で、弟王子を始祖として、魔王国は建国されました。そして初代国王は、『人間国を恨んではならない。我々は新しく国を建てたのだから、他と争うよりも我々の国でこれから面白楽しく暮らして行こうではないか』と、宣言したのです」
「いやしかし、現実には人間と魔族は幾度となく闘ってきた歴史があるのですぞ。その点はどう理解したら良いのだ?」
校長がはむきちに尋ねた。
「確かに歴史全体を見れば闘争の歴史と言うべきでしょう。反面、戦争は場所も期間も限定されており、休戦期間の方が圧倒的に長い。それもまた事実」
「ふむ…」
「事実としては、魔王国は基本的に穏健派が多数を占めており、他国への侵略は画策していません。その証拠に、もし魔王国が全軍を持って人間国を襲った場合、人間国は3日で消滅します」
「そ、そんな馬鹿な!?」
「いえ、失礼しました。2日が妥当かもしれませんね」
校長は動揺しつつも食い下がった。
「しかし使徒様、我々は幾度となく魔王国軍と戦い、勝利してきました。2日で落ちるなど、そんなはずは、そんなはず、あるわけが…」
校長の言葉に、はむきちは鼻をヒクヒクさせた。
「そもそも魔王軍が過去に進軍した理由は侵略ではありません。魔王国初代国王の名誉回復が目的であり、謝罪を要求していたのです。それが成されれば友好の道が開かれるからです。ところが人間達は彼らが想像する以上に弱かったのです。圧倒的に弱かった。魔王国軍は人間国軍の代表を対話の席に付かせようと、鞘当て程度に演習レベルの攻撃をしてみました。その結果、人間国軍があっけなく全滅しそうになったのです。人間国軍に人的被害を出してしまったので、これでは対話どころではありません。これはまずい事になったと、彼らは慌てて撤退したのです。そもそも彼らは正規の魔王国軍ではなく、『人間国に謝罪を要求する会』という、百名程度の私兵集団に過ぎませんでした。当時の魔王国国王が、今回の件は、愛国者が国の為に良かれと思ってやった事なのだから、全ての責任は私が負うべきだと言い、後でその戦闘行為を正規軍の戦闘に準ずると認定しました。そして、彼らの処罰を軽くしたのです。勿論、歴史上全ての戦いが『人間国に謝罪を要求する会』による物だった訳ではなく、やんちゃな若者の肝試しだったり、人間国にある珍味を取りに行こうと出かけていたり、およそそのようなものです。魔獣が跋扈する辺境の地では、武装してお出掛けは標準装備です。人間から見たら危険な軍隊に見えるのですよ」
新事実に校長はメンタル崩壊しまくっていたが、気合いと根性で尚も食い下がった。
「それでは、勇者召喚とは何だったのですか?魔族に戦闘意志が無かったとするならば、勇者という存在に何の意味があったのでしょうか?」
「理由はどうあれ、一度魔王国軍と人間国軍が戦闘状態に入れば、双方に人的被害が出てしまいます。しかし、魔王と勇者の一騎打ち以外決着が付かないと喧伝すれば、双方に犠牲を出さずにすみます。先に話しました通り、女神様は片方に肩入れすることが出来ません。故に、勇者システムで被害を限りなくゼロに近づける方法を取った訳です」
「で、ではまさか…」
「ええ、過去の勇者が魔王を討伐したというのは全部嘘です。魔王が幻術を用いて勇者にやられたフリをしてあげていたのです。もちろん、全て魔王が女神様の指示でやった事です」
一同:ガーーーン!!!
ヨレヨレしながら校長が言った。
「私は使徒様の言葉を信じます。しかし、従来の解釈から遠すぎて、国や教会に何を何処まで報告すべきか、私は皆目見当が付きません」
はむきちはうむと頷き、ふんぞり返る勢いで胸を逸らす。大威張りハムスターであった。
「校長、アリスさん共に、自身の判断でお好きになさって頂いて構いません。全てを報告しても、全てを隠しても、どちらにせよ問題ありません。何故ならばッ!!」
はむきちはビッとレイム君を指差した。
「彼こそが混沌とした現状を打破する最後の勇者!!真の勇者であります!!彼が人間国と魔王国に真の恒久的平和をもたらします!!」
ええっとばかりにおののくレイム君。
「僕が真の勇者???」
「その通り。しかしまだ準備が必要です。その為にレイム君と私は、二人揃って魔法学園に来たのです!」
おおー!!!と驚嘆する校長とアリスさん。
しかし、皆は知らない。
仮説の後半部ははむきちの完全創作であること、そして眼前の地図を見ると、確かに魔王軍の砦には黒い点が並んでおり、それが嵐の予兆足りうる事を。
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