第16話 双子の王子伝説(仮)

「私が今一度強調しておきたいのは、双子の王子伝説に於いて、弟王子には何の落ち度も無かったという事です。つまり彼は、無実の罪で流刑の身となりました。そしてこのような悲劇を生んだ遠因として、彼が闇属性の使い手だった事が深く関わっています」


話がデカすぎて、一同もはや黙って聞いているしかない。ノーリアクションである。


「創生の時代、闇属性は最弱属性と呼ばれ、彼らは不遇な扱いを受けていました。闇属性の子が生まれたら川に流す、そんな悪習があったほどです。闇属性の子供が集まる孤児院までありました」


はむきちの言葉に、校長は思わず嘆息した。


「闇属性は魔族のみが扱う魔法属性で、全属性を扱う人族であっても闇属性は唯一の例外と思っておりました…闇属性を人間が扱えるものとは全く思いませんでした…」


述べて校長は静かにうつむく。


「その件は最後にご説明致します。さて、闇属性持ちの不遇な状況を弟王子は大いに憂いでいました。特に、兄王子が最弱属性の弟を憂いで、彼に王位を譲ろうとした事が発端となっています。兄王子は光と聖と火と水と土、五属性を有する超人的な才能を有していました。彼は、自分の才能があれば辺境の地を人間が住みやすい地に変えられると信じており、事実その力がありました。最弱属性の弟は外に出たら苦労するはずだから、王位を継いで皆に支えてもらえばいいと、弟にそう言ったのです。当時二人は12歳でした。優しい兄の言葉に触れた弟は、そこで奮発したのです。彼はこのように考えました。『闇属性は最弱と皆が言う。だから誰も闇属性を極めようとしなかった。自分は闇属性を極めつくして、闇属性を最強にまで高めるのだ。そして不遇な闇属性の人達を救済する。そしてもし僕が本当の強者となれたら、兄に王位を継いでもらって、僕こそが辺境の地へ行こう』と」


「なんと、そんな事が…」


「それから弟王子は、闇属性の子供達が集められた孤児院を訪れては、皆と助け合って闇属性魔法の修錬を始めます。闇属性とは、時間と空間を扱う魔術であり、極めれば重力操作も出来るし、異空間へのアクセスも出来ます。高度な故に長期間の修錬と莫大は魔力を消費しますが、闇属性は極めれば個に於いて全属性最強となります」


「ううむ…」


「それから四年後、弟王子と孤児院の子供達は強力な闇魔法の使い手となっていました。結果として、弟王子が謀反の為に私兵集団を設立したという嫌疑がかけられました。告発したのは、兄王子派の家臣団です。彼らは双子の王子達の内心を知らずに、闇属性持ちが集まって何やら良からぬ事を画策している、多分謀反に違いないと誤解しました。弟王子としては辺境の地でドラゴンや強大な魔獣達と戦うための自己研鑽をしていたのですが、完全に裏目に出た形です」


レイム君が思わず呟く。


「ああ、なんと不遇な…」


「双子の王子、二人の王子の思惑を離れて、それぞれの王子を支持する家臣団が、勝手に対立を始め、次第に激化し、内戦状態の一歩手前になったところで、弟王子が全面的に罪を被る形で事態は収束しました。弟王子の他に道は無いという覚悟を受けて、兄王子も泣く泣く状況を受け入れました。弟王子は、元々自分から辺境に行くつもりだったのだから、全く問題無いよ、そう言って辺境の地へと旅立ったのです。しかし、致命的な問題として、弟王子が辺境の地で生き延びるにはまだ、闇魔法の修練が足りなかったのです。人と争えば頭一つ抜ける強さは身につけましたが、ただそれだけです。辺境の魔獣共は、それ程に強かった。弟王子が生き延びる確率は非常に低く、事実上死罪です。それでも弱者たる彼が生き延びることができたのは、最終的には闇魔法ドレインが運良く発動し、エンシェントドラゴンの身体を奪い、吸収出来たからなのです。

しかしそれ以上に幸運だったのは、弟王子こそ『真の王』だと言って、多くの闇魔法術者が彼に付いていった事があります。その2つの幸運が彼を救いました。孤児院出身者から、貴族出身者まで多くの者が弟王子に付き従い、彼らは生きた盾となって弟王子を守りました。その詳細は、魔王国に伝記として語り継がれています」


はむきちが語るのはあくまで仮説である。はむきちが王城の禁書庫で見つけた古文書を読み漁った結果、およそこんな事があったのだろうと推測したに過ぎない。けれど、この仮説を補完する古文書が学園禁書庫にもあれば、大当たりとなるだろう。

しかし、はむきちはラリってるので確証不十分なまま自説を真実として吹聴している。

大丈夫かはむきち!?

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