第14話 はむきち、校長室で絶頂に至る
はむきちとレイム君が校長室を訪れると、校長と共に謎人物が待ち構えていた。
彼女は清楚な雰囲気の女性で、おそらく入学式にも来賓として参加したのだろう、きちんとした礼服を着ている。
なんだコイツ?と首をかしげるはむきち。
その時、レイム君が彼女に声を掛けた。
「アリス、君が何故ここに?」
「レイン様に頼まれまして、入学式に参加しておりました。
最後まで自分が参加したいと仰っていましたが、どうしても外せない所用があると…」
「皆まで言わなくて良いよ。姉上が私の為に心を砕いて下さっているのは良く承知している」
それからレイム君は、胸ポケットのはむきちに語りかける。
「彼女は姉上のメイドでアリスと言う。メイドとはいえ、万事に有能で姉上の家庭教師も兼ねてる」
はむきちは素直に驚いた。
「メイドは仕える立場、家庭教師は教える立場、その両方をこなしていると?」
「珍しいけど、それほど有能なんだよ、彼女は」
会話が落ち着いた所でアリスがレイムに話しかける。
「それで、私がこの場にお邪魔させて頂いた理由ですが…先程の話では、そちらのハムスター様が使徒であり、勇者であるレイム様を支えるお役目という事でした。言うまでもなく、それが真実であるならば、王家、教会共にレイム様、ハムスター様を全面的に支持する事になるでしょう。しかし、現状あまりにも情報が少なく、レイン様への報告も曖昧な物にならざるを得ません。先程のファイヤードラゴンも、何かしらの幻術と他の者は疑う事でしょう」
「それで、直接確かめようと来た訳だね」
レイム君は頷き、はむきちに登場を促した。
はむきちは、モソモソとポケットから乗り出して、そのまま空中を歩き出した。
空中歩行の魔術を行使したのだが、はむきち自身、どのような原理で歩けるのか全く分かっていない。呪文を適当に唱えると、全言語自動翻訳スキルが完璧な呪文の詠唱を瞬時に行ってくれる、その結果なのだ。
そして、部屋に置かれたテーブルの真ん中にたどり着くと、二本足でかわゆく立ったまま語りだした。
「論より証拠、百聞は一見にしかずと申します。先ず、こちらをご覧ください」
ラノベでおなじみの、異空間に無限にアイテムを収納する魔法を発動する。
小さなお手々が、空間に空いた謎の穴から大きなガラス瓶を取り出す。
ガラス瓶には土が入っていて、よく見ると蟻の巣が張り巡らされているようだった。
「この中にいるありんこさん、生きた魔石になるよう特別な魔法陣が仕込まれています。遺伝子操作してあるのですが、背に刻まれた白い点が見えますか?電子顕微鏡で見ると、やたら複雑な魔法陣が見えるはずです」
遺伝子操作とか、電子顕微鏡とか、この世界には存在しない言葉なのだが、はむきちは全言語自動翻訳スキルに丸投げして話しを続ける。
「この蟻の巣が入った瓶を複製魔法でとりあえず4億個準備します。広い場所が必要にりますから、異空間収納魔法の内部で作業を行います」
はむきちは瓶の縁を掴むと、瓶を異空間の謎の穴に差し戻し、おもむろに
「4億個複製」と唱えた。
校長、アリス、レイム君、一様にきょとん顔である。
「校長、世界地図はこの部屋にありますか?」
はむきちが訊ねると校長は困り顔になった。
「残念ながらこの部屋には無いのだ。軍事機密扱いでな、図書室の禁書庫にあるのじゃ」
「そうですか、では自前で」
はむきちが小声で何やら唱えると、ホログラム映像の3D衛生写真地図がテーブル上に大きく展開された。
見た感じ、はむきちは地図上の地面に埋まっているように見えるが、本人は全く気にしていないようだ。
「さて、先程のありんこ瓶、4億個を等間隔でバラまきます。地図上のグリッド交点をマーカーとし、転移魔法を使いましょう」
はむきちは異空間の謎の穴に手を入れたま、静かに
「転移」
と唱えた。
すると、地図上のグリッド交点に青い光が表示された。
ありんこ瓶が転移された先は、必ずしも地面とは限らない。
湖かもしれないし、煉瓦で出来た家の中かもしれない。
校長は疑問を感じたが、はむきちは全く気にしていないようだ。
「蛇足ですが、転移先は地上5メートルの設定になっています。家の屋根や木の枝、川の水面も地上扱いです。そして、転移直後に瓶と土だけ消滅させます」
「4億個の瓶と土を消滅させる?
そんな馬鹿な!」
校長が思わず声を荒げる。
「まあまあ、まだ序の口ですから。
このありんこさん、実は大半が羽アリで、空を飛びます。若干羽を落とした蟻もいるのですが、まあ、それはそれとしてほっときます」
はむきちは一体何を説明しようとしてるのか、何が何だか皆にはまだ見当がつかない。
「一つの瓶に数百の羽アリがいるとして、彼らが世界中に万遍なく配置されました。彼らの背にある魔法陣を全部一気に機動し、彼らを魔力センサー兼中継機として使用します」
突然、地図上に様々な色の光が表示されていった。
「人間の平均MPは500ですが、今回フィルターをかけてMP千以上の生命体を検知する設定にします」
地図の北側に黒い光が多数出現した。
光の大きさがMPの量を表しているらしい。
「地図の北側に魔王国があります。この黒い光は闇属性を意味します。つまり魔族達ですが、彼らが町や村を形成して文化的な生活をしているであろう事が、光の纏まりから推測できます。街道に沿って彼らが移動しているのも分かるでしょう」
「全土の生命体のMP量を計測して、地図上に表示させているのか!?」
校長は茫然自失となった。
説明されれば理論上可能であることはわかるのだが、全ての魔法が高度であり、しかも規模がデカい。
このちっこいハムスター、一体どれだけ桁違いなMPを所有しているのだろうか。
「問題は戦略的な要衝、砦に大規模な配置が見られる事です。今すぐとは言いませんが、明らかに彼らは戦いの準備を進めています」
衛生写真の様子が、砦と民家では明らかに様子が異なっている。しかも、砦には大きな戦力が集中しているようだ。
黒い点が特別大きく見える。
「砦の様子も気になりますが、奴らの王城をご覧ください。更に巨大な黒い点が見えますでしょう?彼が魔王ですよ。他の魔族の十倍以上はあるでしょうか。人間の平均と比べてしまうと、実に圧倒的と言えましょう」
皆が皆、はむきちの説明に恐怖を覚えた。地図の南側に人間国がある。そこには全属性を意味する様々な色の光が表示されている。
しかし、MP量が千を超える人間は稀であり、魔族に比較すると点の数は圧倒的に少ない。
「じゃが、人間が魔族に魔力量に劣るのは先刻承知のことじゃ。しかし人間は全属性魔法に対応する特性故に、戦略的優位を持って魔族を退けてきたのだ」
「勿論その通りです。しかしそれでも魔王は勇者でなくては倒せない。それほど魔王は桁違いなんだ。だからこそ王族は、勇者召喚の儀式を秘儀として継承してきたはず」
「う、うむ…」
校長は思わず目を閉じた。
そしてはむきちがたたみかける。
「私は知っているのですよ。
先の勇者召喚で、現れるはずの勇者が現れなかったということを。
それを知っているのは王族、教会でも限られた僅かな人達のみ」
諦め顔で校長は言葉を継いだ。
「あるいは、女神様ご自身とその御使いならご存知じでありましょうな」
はむきちは、得意気に鼻をヒクヒクさせた。
「その通り!!
あと、この地図はこのままここに置いておくよ。この地図が女神様の使徒である直接の証拠にはならないけど、少なくとも僕が君たちの味方である証拠にはなるはずさ。魔王軍の行軍が筒抜けになるんだからね!」
ところで、はむきちは自分の存在が地図上に表示されることを予め分かっていた。
なので、自分のMPが表示されないように自分を隠すフィルターを掛けていた。
しかしもし仮に、はむきちが地図上に表示されていたなら、その光の大きさは、魔王の約五十倍程になっていたのだった。
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