転生物の学園生活には華がある
第13話 はむきち、入学式でやらかす
アホな作者の悲鳴
『ここから2章にしたいのだが、今となってはどうしたらええかようわからん。調べるのもダルいが故に、このままだらだら書くずら』
………
はむきちは過去に読んだラノベや、遊んだゲームの知識を元に、この世界に存在する魔法についてコツコツ確認していた。
テストを繰り返す内に魔法のレベルも上がり続けた。
しかし、莫大なMPと多重起動や混合魔法が瞬時に出来るという基本スペックがチート過ぎて、レベルが上がるメリットは実感として何も感じられなかった。
自分の存在を消してしまう認識阻害の呪文、ハイドを覚えると、はむきちはレイム君の上着胸ポケットに潜り込み、王城内を無遠慮に散策するようになった。
レイム君が歩く時、メイドや衛兵達は胸ポケットのはむきちを見ているはずだ。
しかし、誰も気付かない。
時には胸ポケットから飛び出して、庭で砂浴びをしたり、魔法を使わずに地下迷宮を作るべく掘りまくってみたり、彼は彼なりに王城生活をエンジョイしていた。
しかし、それもレイム君が魔法学園に入学するまで、ほんの数日間の休息に過ぎない。
はむきちはレイム君を真の勇者に叩き上げ、自分の使命を彼に押し付けてしまおうと目論んでいる。
それは責任転嫁の為ではなく、友が勝利者として凱旋し、皆から讃えられる光景に強く憧れるからだ。
もっとも、はむきち自身が責任転嫁などではないと思い込んでいただけかもしれない。
彼が友人の成功を願った事は真実であるが、同時に勇者としての使命から逃れたいという、利己的な思いがあったかもしれない。
「ハムスターが勇者なんてしまらないだろ。
そもそもハムスターに倒される魔王が哀れすぎる」
例えば、はむきちはマジでそう思っていた。
さて、魔法学園は全寮制で入学式の前に入寮する事になっていた。
肩身は狭くとも王族のレイム君は専用の個室を与えられ、同居人ははむきちだけであった。
だから、レイム君とはむきちは入学式当日まで気付かなかった。
学校敷地内が、魔法無効化の結界に守られているということを。
魔法学園は魔法を学ぶ専門機関だからこそ、限られた場所でしか魔法が発動しないように設計されていた。
例えば、休み時間に生徒が廊下で覚えたての呪文を詠唱し、運悪く周囲に被害を与えてしまう状況は実際有り得る事だ。
したがって、魔法学園内は基本的に魔法が発動しないようになっている。
教師が授業の時に、結界を部分的に解除する仕組みを採用しているのだ。
そんな事情を知らないレイム君とはむきちは、普段どおりレイム君の胸ポケットにはむきちを収納したまま入学式に参加してしまった。
二人は現在、講堂に居る。
当然、周囲の誰もが、はむきちの存在に疑問を感じる。
認識阻害の魔法が無効化されているので、入学式の晴れ舞台にハムスターを胸ポケットに入れる王子の姿は、少なからず間抜けである。
そしてはむきちは、見た目やたら可愛い。
お目々クリクリで、鼻先から口元が上品に閉じられている。
しかしそれでも、ハムスターが入学式の場に相応しくないのは明らかだ。
明らかではあるが、事実レイム君は王族なので、迂闊に注意したら不敬罪に問われる可能性がある。
周囲の生徒たちははむきちの愛くるしさに惹かれて、是非王子に声を掛けたいと思うのだが、入学式にハムスターというのは、何かの罠のようにも思えて、何と声を掛けたら良いか誰も思いつかないのだ。
教師たちも内心おやおやと思っているのだが、レイム君があまりに堂々としているので、そのハムスターは何だと注意するにも勇気がいる。
教師達は互いに目配せをしぬがら、最終的に皆が校長の顔を見つめた。
校長が座っていた席はレイム君からかなり離れていて、最初校長は周囲がザワつく原因がよく分からなかった。
しかし、入学式が始まる前に、何か問題があるなら解決すべきだ。
入学式は予定ではあと数十分で始まるのだから。
校長は立ち上がり、おもむろにレイム君に歩み寄る。
やがて彼の胸ポケットに愛くるしいハムスターの存在を認めると、
「ううむ」
と、彼は唸った。
校長の立場上、注意はせねばならん。
しかし、言い方は大事だ。
王族の権威を公的な場で貶めるような事があってはならない。
そこで校長は、努めて自然に挨拶をすることにした。
レイム王子と、その友人にである。
「王子、この度はご入学おめでとうございます。ところで、その胸ポケットの君も入学なさる予定でありましょうか?」
王子は認識阻害魔法が無効化されていると気づかなかったので、キョトンとした表情になった。
はむきちもキョトンとしてしまった。
しかし、はむきちは早くに魔法が無効化されていると気づいた。
『しかし、バレてしまっては仕方ない』
この場はマウントを取って、勢いで乗り切るしかない。
はむきちは小声で鑑定を唱えると、校長のステータス画面を確認した。
知りたいのは校長の名前だ。
「エグゼビア校長、ご挨拶ありがとうございます。私がここに控えますのは私が入学する為ではありません。私は女神エリアルによって使わされた使徒です。
そして私は勇者レイムを導くために使わされたのです」
校長ははむきちが魔術によって会話していると見抜き、ただのハムスターではないと理解した。
かといって、女神の使徒だという説明をそのまま信用するほど迂闊ではなかった。
「なるほど、ハムスター様は女神様から使わされた使徒様でありましたか。
ならば、来賓席をご用意致しますので、是非そちらに移動願います」
それでもはむきちは、校長の威圧にビビることは無かった。
「私が王子の胸ポケットにいるのは、彼がまだ弱く、魔族からの強襲に耐えられないからだ。私は常に彼を護衛せねばならない。そう女神様に託されている」
クリクリお目々で大嘘を吐くはむきちであった。
「それはそれは大変失礼致しました。しかしながら魔法学園は物理魔法共に強力な結界を張って常時備えております。是非ご安心頂いて、席の移動をお願い致します」
校長の本音は、はむきちが王子の胸ポケットに居ようと特別構わないと思っていた。
校長が声を掛けた時点で、どうせこの場にいる皆がハムスターの存在に気付き、注視している。
今更胸ポケットだろうと来賓席だろうと静かにしているならば然程大差ない。
しかし、ハムスターは女神から使わされた護衛なのだと宣言した。
ならば、彼はその実力を見せてくれるかもしれない。
はむきちはニヤリ笑い、
「我を試すか!!
笑止なり!!」
ちっちゃなお手々を上に掲げて叫ぶ。
「召喚!!ファイヤー・ドラゴン!!」
講堂の天井に巨大なドラゴンが出現した。
大きく羽ばたいているが、何故か皆が風に煽られる事はなかった。
「多重結界を破ってドラゴンを召喚するとは!?」
そもそも魔法学園の結界を作製したのはエグゼビア校長なのだ。
理論上、結界を破る方法は存在する。
しかし現実には有り得ないと彼は認識していた。
「ま、まさしく神の御業!!」
「最初からそう言っている」
はむきちはドラゴンを帰還させた。
マウントを取ることに成功したはむきちは、しれっと胸ポケットに収まったまま、結局最後まで入学式を共に過ごしたのだ。
勿論、その場にいた全員が、勇者認定されたレイム王子に気を取られ、女神の使徒を自称するハムスターに驚いていたが、それでも入学式が終わらねば、その先何も進まない。
皆がソワソワしながらも形式を守って入学式は無事に終わった。
入学式が終わってから、折り入って話があるとはむきちは校長に言っておいた。
女神の代理として、神託を与えるといった口調で、明らかに職権乱用、実にやりたい放題である。
一番困っていたのはレイム王子だった。
レイムは自分が勇者だと自覚していなかったし、事実勇者ではない。
そして、はむきちが女神の使徒という話も初耳である。
それも実際嘘なのだから、彼が信じられないのも当然であった。
けれど、結界を強制的に無効化してファイヤードラゴンを召喚した実力は本物で、レイムもそれを疑うことはできない。
少なくとも、はむきちは彼を守護する実力があることは間違いない。
「とはいえ、何がなんだか」
レイム王子は思考を保留した。
「レイム、成り行きで大ボラ吹いたが許してくれ。少なくとも僕は、君を守ること、君の友人であることについては絶対偽らないよ」
「いや、それを言うなら僕もすまなかった。魔法学園に守護結界が張られていることは入学パンフレットに書いてあった気がする。今思えば迂闊だったし、校長に声を掛けられた時も頭が真っ白になって何も言い返せなかった。自分で自分が情けないよ」
「あ、そう言えば」
「ん?そう言えばなんだい?」
「レイム君が勇者である必要はないんだが、いずれ魔王軍が攻めて来る事は本当なんだ。だから、君が勇者である必要はないが、君が自分を鍛えて強くなる事を、是非お勧めしたい」
「そもそも君は何故そんなことを知ってるのかな」
「勿論おいおい話すさ。けど、話せば長くなる話なんだよ。とりあえず今は校長の所に行くよ。今日の仕上げをしなくちゃ」
二人は校長室を目指した。
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