第11話 女神様が更にやらかしていた件

結論を先に述べると、僕は既に究極のチートを授かっていたのだ。


このチートがあれば、実質家庭教師は要らなくなるという事なのだが、さっそく具体的な話をしよう。


そのチートとは、全言語自動翻訳スキルなのだ。


大前提として、全言語自動翻訳スキルというのは、能力的にも構造的にも、スマホで使える翻訳機能と然程大きな違いはない。

音声入力された文章を翻訳エンジンによって翻訳していく。


ところが僕、はむきちの場合、


「ジジ…」という単純な発声しかできない。

故に、音声入力での翻訳原文が不可能となってしまっているのだ。


なので女神様は、はむきちに与えていた全言語自動翻訳スキルに於いて、音声入力部分に重大な仕様変更を行った。


それは、音声としての発声が言語的に不完全であったとしても、脳内の発言意志や情報を元に思考を入力ソースとして、日本語原文の自動入力を行うというものだ。


つまり、発声内容が言語的に滅茶苦茶であっても、ハムスターの鳴き声だったとしても、発生時に日本語の論理構造によって思考してさえいれば、その思考内容が翻訳原文として採用されるというものなのだ。


人間としての魂が論理的な思考を持っていても、ハムスターの発声器官では人間の言葉を話せない。

故に、女神様としてはこのようなバージョンアップもやむなしとして、全言語自動翻訳スキル改変を行ってしまった。


ともあれ、最後まで女神様はポンコツであった。


原因不明ではあるが、先ず最初、召喚者をそもそも間違えていた。

間違えたばかりか、ハムスターの存在を見逃し、ハムスターを勇者召喚し、成り行きで人間の霊をハムスターの身体にねじこんだ。


ミスの連続にテンパった女神様は、自分の失敗を何とか取り返そうと、スキルとMPの大盤振る舞いを行った。


全言語自動翻訳スキルが、そのままではマトモに機能しないと気付いて、思考入力という禁じ手を採用してしまった。


思考入力がなぜやばいのか、それは思考入力それ自体に神界レベルの文章解析機能が組み込まれているからである。


例えば、


「この世界に大根はありますか?」


と、誰かに訪ねたとする。


異世界において、地球と完全に同じ大根などあるはずがない。

質問者は、当然異世界に大根が無いことを知っているのだ。


つまり質問者の質問意図は、地球にある大根に似た野菜が存在するかということなのだ。


おそらく質問者は、自分の知っている大根料理の味が懐かしくて、全く同じではなくても、大根によく似た何かがあれば、是非それを知りたいと思っている。


「この世界に大根はありますか?」


という言葉を音声入力すれば、そのままの文章となる。

しかし思考入力では違ってくる。

発言者の発言意図が、発言内容に付加されてしまうからだ。

例えば思考入力では、


「この世界とは違う世界、つまり私の故郷には大根という野菜がありました。この大根は、この世界ではアルタという名前の野菜がもっとも似ている野菜と思われます。あなたは、大根、又はアルタという野菜を知っていますか?」


という入力内容となる。

ちなみに、大根がこの世界でどう呼ばれるかについては、翻訳機能の一部として神界にあるデータベースから自動解釈される。


さて、自動入力される翻訳文は、思考原文を正確に読んで意図を伝える為に長文となる。


しかし、実際の原文発声時間は翻訳文発声時間よりも短いので、その時間を同じにしないと会話上の不都合や不便が生じる。

その為、バージョンアップした全言語自動翻訳スキルは、時空間魔術の機能まで組み込まれている。


例えば、


「この世界に大根はありますか?」


を、2秒で発声したとする。


それを異世界の言葉に翻訳するのだが、その翻訳文は長文になっている。


「この世界とは違う世界、つまり私の故郷には大根という野菜がありました。この大根は、この世界ではアルタという名前の野菜がもっとも似ている野菜と思われます。あなたは、大根、又はアルタという野菜を知っていますか?」


思考入力によって得たこの文章を翻訳エンジンが異世界語に変換する。

それを2秒で発声して実際の発声と翻訳発声を同期させる。


同期とは、長文を早口言葉で無理矢理2秒に収めるという意味ではない。

それは不可能だし、出来たとしても相手に聞き取れないので意味がない。


同期というのは、時空魔術によって発言者周囲の時間が流れる速度を遅くして実現している。


発言者は2秒で発声しているが、聞き取り側は15秒の長文を聞いている。

しかし時間の流れを遅くしてあるので、体感的に15秒のはずが実際には2秒しか経過していないという訳だ。


思考入力と音声入力の文章量は内容によって大きく変動するので、時間の速度も発言のたびに変化する。


この思考入力と、翻訳後の発声時間を翻訳前の原語発声時間に同期させるという二つの機能。


この二つの機能を使って魔法詠唱を行うと果たしてどうなるか。


例えば、火の玉で敵を攻撃する魔法を詠唱したとする。


思考入力を用いれば、実際の発声は何であっても構わない。

「火球!!」

「ファイヤーボール!」

「フレイム!」

「ジジジ!」

「ッ!」

どんな発声であろうと、思考が「火の玉の攻撃魔法を射出する」と、正しく成立していれば、異世界原語の詠唱呪文に自動翻訳されて魔法が発動する。


したがって、思考入力が出来れば異世界の正確な詠唱呪文を覚える必要が全く無い。

魔法を発動するという目的と行為に対して、思考が正確なら発声は何でも構わない。ということは、事実上無詠唱魔法が可能であるという事だ。

無言では翻訳スキルが発動しないので、何かしらの発声は必要なのだが、一瞬の発声で構わない。


更に、炎の嵐をイメージしたファイヤーストームの魔法を発動させたいと思ったとしよう。


本来ならファイヤーボールをレベリングしてファイヤーストームに仕上げるのだが、思考入力ではインチキが出来る。


レベル1でもファイヤーボールは使えるし、ウインドの魔法も使える。

これを合成魔法として呪文を組み直せば、ファイヤーストームっぽい挙動になる。合成魔法を作るというのは本来魔術式に関する膨大な知識が必要なのだが、全言語自動翻訳スキルは勝手に異世界言語の正確な詠唱呪文を自動生成してくれる。


そして、レベル1のファイヤーストームモドキは非常に威力が弱いのだが、この呪文を千単位で直列起動と並列起動を同時に行うと、レベル1だろうと凶悪な攻撃力を発揮する。


合成魔法や直並列起動は、実際には数時間の詠唱時間と莫大なMPを消費する。

なので現実には全く実現不可能な方法なのだが、唯一の例外が僕、はむきちなのだ。


レベル1でもファイヤーストームに似た呪文を勝手に作り出して発動させてしまう、おお、それがどんなにヤバイ事か。


レベルが上がらないと全く使えない魔法もあるので、レベル上げはすべきなのだが、合成と直並列ブーストを使えば戦闘に関してはほぼ無敵といえよう。


家庭教師も要らないという訳だ。


僕は今まで、ハムスターなのにレイム君と会話出来る理由について、翻訳スキルがあるんだからそんなものだろうと、深く考えないようにしていた。


しかし、あくまでも魔術的な自動制御の結果であって、事実としてはハムスターの僕は「ジジ…」としか発声出来ないという事だった。

しかし、それが自分の耳には日本語に聞こえ、会話の相手には異世界語に聞こえ、それでいてその発声時間までも完全に同期しているという、恐るべきファンタジーが発動していたのだった。

















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