第9話 はむきち、悪意に満ちる
レイム王子の姉である、レイン王女は予想以上に良い人だった。
なんと、王子はろくに理由を告げぬまま、彼女が幼少の頃より愛でていたドールハウスと、ハムスターのぬいぐるみ20点を奪取することに成功したのだ。
有能な友人のおかげで、僕は王族仕様の豪華なドールハウスに住む事となった。
リアルで緻密なドールハウス。
制作者はマジで神。
書斎には立派な机があり、居間には暖炉とソファー。
暖炉は安全な魔導具によって本物の火がついている。
そしてベッドも無駄に豪華である。
本物の羽毛、本物の絹が贅沢に使用された一点物なのだ。
トドメにかわゆい20体のぬいぐるみ達である。
ハムスター主観によると、彼女達はまるでリアルドールそのもの。
発情期のハムスターであれば、何をしでかすか分からない環境といえよう。
しかし、残念ながら人間の魂を持つ僕にとっては、彼女達は僕の存在を隠す隠れ蓑に過ぎない。
木を隠すなら森の中 、この格言が如くに僕が彼女達の真ん中に埋もれると、レイム王子ですら一瞬僕の存在を見失う。
この大量のぬいぐるみを王女が持っていた、それこそ天の配剤と言えよう。
このドールハウスとぬいぐるみ達は、現在レイム王子の部屋に置かれていて、場違いなファンシーオーラを放出している。
そしてとにかく、この部屋に来る執事だとかメイドだとか、メイドだとか執事だとか、
奴らは全然僕の存在に気づかないのだ。
危機管理能力あるのかと突っ込みたいくらいだ。
そんな次第で、僕はレイムと出会った翌朝から、ブチ贅沢な日常を味わう事となった。
棚ぼたではあるが、誠に有り難い。
さっそく、我が友レイムに何かしらのお返しをしようと思う。
レイムは魔法の属性を持たないと言っていた。が、このファンタジーな世界で一人だけ魔法が使えないというのは、むしろ嘘くさい。そして怪しい。
女神様は、ステータス参照はこの世界で僕一人だけにしか出来ないと言っていたが、他人のステータスを覗くことが出来ないとも言っていない。
ダメ元で試してみる価値はある。
「レイムのステータスをオープン!」
レイムは僕の目の前に居る。
魔法実験をやるという名目で、目の前に座らせているのだ。
『お、ステータスが表示された。あっけなく成功したな』
「レイム、ステータス画面ってゆーのが目の前に表示されているんだが、君に見えているか?」
「いや、特に何も見えてないよ」
「そうか。
まあ、僕が全部教えれば良いのだから、見えなくても問題無い」
「そもそも、ステータス画面が何なのか、知らないのだけれど」
「魔法属性とか、スキル一覧が文書として閲覧出来るヤツだよ」
「教会の魔法属性判定は、水晶球に現れる光の色で判定してたよ。僕は無属性で全く何も光らなかった」
「ああ、それなんだが、君の属性が分かったよ。君は闇属性を持ってる」
「闇属性!?
魔族と同じって事?」
「僕が聞いた話だと、人間は種族的に全属性持ちだと聞いてる。だから、君が闇属性の魔術師だとして、何の問題もないはずだ」
「どうなんだろう。僕は人間で闇属性持ってる人とか、誰一人として知らないよ」
「人間が闇属性持ってるのはレアケースってこと?」
「多分そうだと思う。
場合によっては、先祖に魔族が居るはずだとか、陰口叩かれそうな気もする」
「うーん、そうか…。
ならとりあえず、この件は二人だけの秘密にしておこう」
「うん、そうしよう。
でも、闇属性魔法について詳しく調べてみたいな。魔法学園で何を学ぶべきか見当が付かずにいたけど、かなり良い手掛かりを得られたと思うよ」
「うん、そうだね。
魔族と同じと表現するとネガティブイメージが湧くけど、ポジティブに捉えれば人間でありながら魔族を凌駕する可能性を秘めてるって事だよね」
「ああ、確かに。
魔族に対して光属性魔法は有効だけど、打ち消し合う力なので、耐久力として有効という意味合いしか無いらしい」
その時、僕は悪魔的なヒラメキを得た。
ピキーーーーン!!!
「レイム、分かった!!
僕が思うに、もしかしたら君は勇者なんだよ!!」
「え!?僕が???」
またもや驚愕のレイム。
女神様との会話によると、勇者は僕、はむきちという事になっている。
勇者召喚によって呼ばれたのが僕なのだから。
しかし、人類にとって大切なのは、誰が勇者なのかという事よりも、誰かが魔王を倒すという結果こそが全てとなる。
と、言う事はレイム君を勇者に仕立てて、僕が彼に全面協力して、結果魔王を倒せたならば、それはそれで何ら問題無いという事だ。
素晴らしい!!
何がどう素晴らしいかといえば、女神様は僕が勇者だと言ってたが、獣人にも戻れない、ちんまいハムスターが『勇者であります』
と宣言したところで誰が信じて僕を手伝ってくれるだろうか?
そもそも、獣人に戻れたところでネズミ男だからな、人類代表勇者です、と言ったら石を投げられるかもしれん状況だ。
それが現実ではなかろうか!!
しかし、その危うい部分を全部レイムに丸投げしてしまえば、レイムも僕もウィン・ウィンでハッピーエンドに直行出来そうじゃないか!!
僕は彼の手に自分のちっこい手を重ねた。
はむきちの手は、我ながら可愛くてたまらん。
ぷるっと震えて、再度僕は宣言した。
「レイム、僕は君の友人だ!!
僕は君を、激しく全力で助けちゃうぜー!!!」
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