第3話 女神様、やらかす

「一通りの説明はしました。

今後の具体的な事については、転生後にあちらで聞いて下さい。

また、私と直接話したい時には礼拝堂にいらして下さい」


「ラノベによくあるやり方ですね」


「ええ、ええ、その通り」

 

女神様は、自然とほっこりした表情だ。

状況の深刻さを一瞬忘れて、僕もほっこり気分で微笑んだ。


「では、神界と地上界の時間の流れを再同期させますね」


「再同期って、つまりどんな感じですか?」


「つまり、神界と地上界は通常時間の流れは同じ速度になっています。

地上界の観測に最も適しているからです。

けれど、召喚魔法に関しては、発動から完了まで約二十秒しかありません。

僅か二十秒の間に、あなたを神界に呼んで、ことの経緯を説明し、勇者としての心構えをレクチャーするのは無理というものです」


「なるほど」


「故に現在、神界での時間の流れを地上界より遅くなる設定にしてあります。

それを、元の設定に戻します。

いよいよ、勇者たるあなたが地上界に降臨する時が来たからです」


「なんだか身の引き締まる思いがします」


自分の足元に、魔法陣が点滅していた。

今まで気づかなかったのは、時間の流れが遅くて、点滅間隔が長すぎた為だろう。

点滅間隔がどんどん早くなり、魔法陣から強大な光が放出された。


いよいよ転送かと思った僕は、女神様にどうしても今のうちに聞いておきたかった疑問を投げかけた。


「最後に女神様にお伺い致します。

女神様、僕の名前は山田なのですが、何故女神様は先程から僕のことを田中君と呼びかけられていたのですか?」


「え!?」


女神様が、明らかに愕然とした表情で固まっている。


「女神様!?」


僕も愕然とした表情で固まってしまった。


おそらく、召喚魔法そのものに何かしらの手違いがあったのだろう。

しかし、召喚魔法はあと数秒で完了する段階まで来ている気配だ。


思わず足元の魔法陣を見た。

すると、つま先にいたはむきちが、魔法陣の強大な光と一体化して発光している。

なんだかとても嫌なな予感がする。


「女神様!!」


振り向くと、女神様は驚愕の表情を更に強めている。


「田中君、もとい山田君!!

時間がないのではしょりますが、ハムスターが勇者として地上界に召喚されようとしています!!

その瞬間、あなたの霊体は完全消滅してしまいます!!」


「!!!!」


「今のうちにあなたの霊体をハムスター中に封印同化させます。

ハムスターの身体は何かと大変でしょけれど、チートスキル万全ですから絶対大丈夫!!

勇者無双しちゃって下さい!!」


「勢いで誤魔化してませんか!?」


「時間の流れを遅くして、あれこれすればなんとか出来たのですが、時間の流れを再設定するのにクールタイムが必要で、不本意ですが、現状これが最善策に…」

僕の身体が突然小さくなったような感覚と、溢れる光で全身が爆発するような感覚を同時に味わった。


『…これはあかん…』


直後、僕は教会か王城であろう豪華な建物の中にいた。床に描かれた魔法陣は未だに強力な光を放っている。

はむきちの身体となってしまった僕には、光のカーテンに遮られて周囲のほとんどが見えない。

おそらく、周囲の人間たちからも僕はまだ見えていないだろう。


「山田君、正直に言いますが、このままだとあなたは害獣として駆除されてしまう可能性があります。

なので、他の場所に緊急転移させます。

今は礼拝堂にいるので私の声が直接聞こえますが、他の場所では聞こえなくなります。なので、転移したらステータス画面を開いて下さい。私からのメッセージが届く機能を追加しておきます」


頭の中に女神様の声が響き、次の瞬間、僕は別の場所に居た。


「はむきちになってしもた…」


僕は真っ暗な部屋に居た。しかし小窓の月明かりから、今が夜だと分かる。

なんとなく、物置のような小さな部屋だ。


ハムスターは夜行性で、夜目が効く。

しばらくすると、自分が鳥籠のようなものに閉じ込められている事が分った。


『女神様も趣味が悪いな。

僕がハムスターになってしまったからといって、ケージに閉じ込めるとは』


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る