第2話 よくある神界

真っ白い世界に僕は立っていた。

僕はラノベファンなので、ああ、僕は死んだのだなと、直感的に理解した。


ふと足元を見ると、僕が飼っていたハムスター、はむきちもそこにいる。


『はむきち、お前も一緒なのか。

お前まで助からなかったのは残念だったけれど、一緒にいられて少し嬉しいよ』


はむきちは、生前餌をねだる時のように、僕のつま先までヨタヨタと登ってきた。


突然、目の前に女神さまが現れた。

あまりのテンプレート的な展開に、不思議な安心感を覚える。


「田中君、神界へようこそ。

私は女神エリアル。あなたを次の世界へと導く者よ」


「今更ですが、やはり僕は死んだのですね」


「ええ、そうよ。

でも決して悲観する必要はないわ。元々魂は永遠に生き続けるものなのだから」


「そうなんですか?

僕は前世の記憶とかありませんから、今ひとつ実感が持てません」


「確かに、地上界ではそのの通りね。でもほら、ここでは全て思い出せるはずよ。あなたが幾度となく生まれ変わった事や、その生き様の全てを」


そんな馬鹿なと思ったが、確かに僕は、前世の記憶を唐突に思い出した。

そこには地球ではない、別の惑星での記憶もあった。

また、人間ではない謎生物としての記憶もあった。


「なるほど、これはびっくりだ」


「でしょう?

でも田中君、今回はこれまでの輪廻転生ではないのよ。

ラノベファンの田中君ならわかるはずなんだけれど、今回は『勇者召喚』の結果なの」


「勇者召喚!?」


「そうよ。

あなたが突然の事故によって死亡したのも、そしてこれから異世界に転生しようとしているのも、勇者召喚の持つ引力によって人為的に引き起こされたのだわ」


「!!」


僕は絶句した。

そして多分、勇者召喚という行為の身勝手さに内心腹を立てていたと思う。

しかし、僕のラノベ知識がこう告げている。

ここで女神様に八つ当たりしたところで、全く無意味なのだと。


故に僕は、勇者召喚の詳細を尋ねる事にした。

一ラノベファンとして、ここは話をスマートに繋ぐべきだ。


「…勇者召喚とくれば、やはり定番の『魔王を倒す』クエストが目的でしょうか?」


「ええ、その通りよ。

うん、ラノベファンは説明が楽で本当に助かるわ」


「なるほど。

僕は今まで、うだつの上がらない人生を生きてきました。

なので、勇者として人生再スタートというのは、正直ありがたい、…そう思う気持ちもあります。

もっとも、勇者の人生もまた、それなりに過酷というオチかもしれませんが…」


すると女神は、一層微笑んだ。


「もちろん、勇者の使命は簡単に果たせるものではありません。魔王は桁違いに強く、魔王軍は強固です。しかし、ラノベファンの方あなたなら知っているはず。勇者は特別なスキルを授かっており、結局最後に勝利するのは、勇者であるあなただということを」


僕は女神様の率直な物言いに驚いた。


「…女神様、僕にも色々思うところはあります。

が、今は敢えて訊かずにおきます。

それよりも勇者の持つ、特別なスキルについて、具体的に教えて頂けますか?」


「勇者のスキルについては、『ライトノベルのテンプレートに忠実』といった理解で構いません。

先ずは全言語自動翻訳、経験値獲得量が常時通常の50倍、ステータス画面の参照、全属性魔法習得、全剣技習得…そんなところでしょうか」


『全属性魔法習得には、空間魔法とか鑑定魔法とか、錬成魔法も含まれますか?』


「もちろんよ」


「本当に?それではほぼ無敵じゃないですか?」


「ええ、ほぼ無敵よ。

でも、完全無敵という訳では無いし、レベリングに時間も必要よ。それに何より、勇者は一人しかいない。」


定番通りの展開であれば、勇者パーティーを組んで魔王討伐の旅に出るのだろう。


けれど、勇者の役割を交代出来る味方は一人もいない。


例え個に於いて勇者の存在が圧倒的だったとしても、もしも油断したら、魔王軍の単純な謀略にやられるかもしれない。

例えば強力な封印魔法とか。


『…ふう、考えだしたらきりがない。

たった一人の勇者に寄って魔王は討たれるが、逆もまた真なりという訳だな』




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る