はむきち・the・ジャンガリアン

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転生物のテンプレは大事

第1話 よくある転生事故

僕が住んでいるアパートは、ペット飼育禁止だった。

けれど、僕は誘惑に負けてしまい、ジャンガリアンハムスターをペットショップでコッソリ入手し、かれこれ一年、彼を秘密裏に飼育している。


ところが、ここ数日彼の調子がおかしい。


今思えば、動物病院に直ぐ連れて行くべきだったのだ。

しかし、僕はしがない派遣社員だ。

工場勤めの安月給では、ハムスターの診療費とか、薬代とか、予算的に間に合うかどうか心許なかった。


『実家への仕送りを一回だけ止めれば大丈夫かもしれんけど…。

実際、そういう訳にもいかんし…』


また、ハムスターの彼をアパートの大家さんに見つからぬように連れ出すのにも不安があった。

ハムスターは小さいし、大声で鳴くこともない。だからコッソリ病院に連れて行くことは然程難しくはない。

しかし、簡単だからといって絶対バレないという保証もない。

大家さんとバッタリ道で出会い、気まぐれに声をかけられたら、それを無視して通り過ぎる事はあまりに不自然だ。

ルールを破ってペットを飼っているという負い目もある。

状況が自分にとって不利になる様をあれこれと想像してしまい、とりあえず今は様子見しようと妥協してしまったのだ。


しかし、日に日に弱っていく彼を見て、このままほっとくのは心情的にもう無理だった。


通販で買ったばかりの最小ケージに彼を押し込み、バスタオルを風呂敷のように扱ってケージを隠し、覚悟を決めて大胆にアパートから飛び出した。


工場の夜勤明けで正直眠かったが、このまま何もせず彼を死なせてしまったら後悔すると、感情を高ぶらせて眠気を弾き飛ばした。


アパートから一番近くの動物病院まで、走って三十分かからない距離だ。スマホのルート検索で、迷うことなくたどり着ける。


急げ、急げ、急げ


と、走り続けた時、交差点で僕は大きな車に跳ね飛ばされた。

多分自分の不注意のせいだ。


衝突の衝撃で、僕は彼の入ったケージを手放していた。


僕の意識の中でゆっくりと時が流れ、ケージは何かのアニメの場面で見た時のように、ゆっくりと空に飛ばされた。

そしてそのまま、ゆっくりと弧を描き落ちていく。


『はむきち、すまん。

どうやら僕は君を助けられない』


と、心の中で僕は

刹那に呟いた。

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