第49話 ミーティング


「こんなところじゃないかな。結果を出すのは大事だけど、君たちはまず内容を良くして欲しい。自分に出来ることを常に出せるようにしよう」

 片付けを終え、軽くミーティングをする。実はこれも一苦労だった。その日に起きたことを整理し、話す内容を考えなくてはいけない。

 かといって練習中ではないので、あまり長々としたくない。そもそも長すぎたら選手が覚えられない。短い時間で的確に伝えなくてはいけなかった。

 別に必ずやる必要はないのだが、やっておかないとそれはそれで味気ない。

「出来なかった事は一つ一つ埋めていけばいいさ。階段を何段も飛ばすには労力がいるからね。焦ることはない」

 こういう事をしていると、朝礼などでスピーチしている校長の凄さを思い知る。しかもほぼ毎週行っているのだ。イベントや大きな出来事があるならともかく、特筆することがないときはどうするのか。自分ならすぐにネタ切れになっている。

「翌日には全部頭から抜け落ちている、というのは勘弁して欲しいかな。ミスするのは仕方ないけど、同じミスを何度も繰り返さないようにしよう」

 失敗するのは悪い事ではないのだが、その内容に気を配って欲しかった。これもまた選手によって違うから大変なのだ。何を目指すかで求められるレベルも変わってくる。


「それとテストが悪かった子はちゃんと復習しておくように。部活ばっかりやればいい訳じゃないからな」

 少し前に期末テストが終わったのだが、全員が良い成績とはいかない。案の定、何人かが明らかに顔を逸らした。

「別に学年トップを狙えとは言ってないぞ。困らない程度にはやっておけ。好きなことをやるのに足を引っ張られたくないだろ」

 ここは進学校ではないので、テストはそこまで難しくない。どの教科にも簡単な問題を配置しているので、それなりの点は取れるようになっていた。普段の授業を聞き、軽く復習しておくだけでも問題ないレベルだ。

 だが想定通りに運ばないのもまた学生というものだ。


「だったらもっと簡単にしろよ。嫌がらせのつもりか」

「そうっすよ。意地悪しないでください」

「文句は聞かんぞ。どれだけサービスしてると思ってんだ。あと二年の問題には関与してないからな」

 学校のテストに比べれば、教習所のテストや、バラエティのクイズ番組の方がよほど底意地悪く思える。こっちは別に騙そうとか、成績を落としてやろうなんて思っていないのだ。

「まぁ先生ならやりかねないけどね。生徒を苦しめても平気な顔してそうだし。知らないうちに悪事の片棒を担がされてるかも」

「悪質セミナーに掛かってるみたいね。まさか経験からきてるのかしら」

「百十番する?」


「それじゃあ終わり。解散だ。帰れ、帰れ」

 雑音を無視して、ミーティングを閉めた。大きな挨拶が響き、生徒たちが各々帰路についていく。ようやく落ち着くことが出来た。

 練習中はそこまで敬語などに気を遣わなくて良いといったが、もう少し遠慮というものを覚えて欲しかった。変な方向に逞しくなられても困るのだ。

 これは指導者の影響だろうか。

(いや、俺はもう少し真面目で礼儀正しかったはずだ。きっと悪普段の普段の環境だな。しっかり生活指導して欲しいもんだ)

 うんうんと強く頷く。どこからか否定する声が聞こえた気がしたが、勘違いだと思うことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る