第43話 切り札に向けて


 小さく頬を上げながら、家久は選手たちを見つめている。練習試合でここまで熱気の籠った試合ができるのは素直に嬉しかった。正直予想以上の収穫があった。

 それでも点差は縮まらない。点を入れても取り返され、逆に相手を抑えても点を取れないことがあった。膠着状態を打ち破れないのだ。


 最後のタイムアウトを取ったのは、残り三分を切ったときだった。平田二中とは八点差がついている。


「まだまだイケるぞ。今からでも充分追いつける」

 それぞれに応える声が聞こえる。流石に試合前ほどの元気がない。

「流れを掴みたいならここからだが、失敗したくないと思えば固くなる。だからとことん強気で行け。攻撃も守備もやられていいからどんどん仕掛けろ。ここまで何度も言ってきただろ。失敗を怖れるな」

 平常心でゲームを進めるなどまだまだできない段階である。できないことを言っても混乱させるだけ。だったら守れることを簡潔に伝える。

「ミスをしたなら取り返せばいいだけの話だ。何にも難しいことはない」

 翔子が力を振り絞り、大声で返事する。スタミナはある子だが流石に消耗している。相手のキーマンを必死に抑えていたのだから当然だ。


「芽衣を出す。外からのボール出しは冬美にするから、一番は秋穂がやれ」

 メインガードはセットオフェンスのとき、主に真ん中でゲームメイクする。大抵はここから攻めが始まるのだ。

 ついに冬美がいる状態で自分が任されることになった。秋穂も不安に駆られているだろうが反論する余裕はない。疲労でそれどころではない。今は残っている全てを試合に使いたいのだ。

 ここはよりオフェンシブにいく。危険度は高いが勝負をさせたかった。


「あの子のマークは翔子のままでいい。抜かれてもお前が真っ先にカバーしてやれよ。いけるならダブルチームにいっても構わない」。

 不満そうな芽衣に指示を出すと、渋々ながらも従った。本当は自分がマークしたいはずだが、監督の指示は守ってくれる。残念だが消耗した今の彼女では止められない。

「最後の三分だ。力を出し切ってこい」

 ブザーを合図に送り出した。ここから更に盛り返す方法がない訳ではない。だがそれには一人の選手の力が必要不可欠になる。離れていく背中を見ながら家久は呟く。


「ヒントはいくらでもあっただろ。答えなんてもうわかってるはずだ」


 最後のピースに向けた言葉はコートの熱気に消えていく。届いているかもわからないまま。

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