第37話 相手の出方


 東大原中はリードを保ったまま一クォーターを終えることができた。家久からすればまずまずといったところである。


「どうだよ。あたしらもやるもんだろ」

 意気揚々とベンチに戻ってくる。平田二中は都大会にも出場するチームである。その相手にリードすることができたのだ。こんな展開になると思っていなかった子もいる。ベンチもどこか浮ついていた。

「まだ一クォーターが終わったばかりよ。あんまり調子に乗らない」

「わかってるって」

「どれだけゴール下を落としてるの。もっとしっかり打ちなさい」

「ぐだぐだ言うなよ。次は全部入れてやるさ」

 冬美の小言が耳に届いているのだろうか。まるで気にしていない。

「まぁ機先は制したかな。その自信は大切にしな。うちは挑戦者だ。臆することなくいけよ」


 三人を残してメンバーを交代させる。前半はさくら達を軸にメンバーを組んでいた。単純な上手さだけでなく、ポジションの関係や相性などもある。面子によっては力を発揮できない選手もいる。良さが死んでしまうこともあるのだ。こういうところも見極めていきたい。


「ペース配分に気をつけろよ。まだまだ先は長いぞ」

「平気。まだまだ動ける」

 まだまだけろりとしているが少し心配だった。中学からは試合時間が伸びる。練習と試合では同じ時間でも疲労度が違う。芽衣がどれだけ動けるのかも確認しておきたい。


「あの名取先生。平田二中が」

 小清水の声音には戸惑いが含まれていた。相手もメンバーを代えてきたのだが、全員を交代させたからだ。一クォーターとはがらりと面子が変わる。その中には果林もいた。

「たまにありますよ。点数が離れて勝敗が決まった試合だと、経験させるためにやることです」

 ベンチには部員がたくさんいる。なるべくなら出してやりたいと思うのは、どの指導者も変わらない。

「でもこの場合は違う。恐らく全員一年生だろうな」

 一クォーターと比較して、明らかにサイズが小さくなる。選手の中には芽衣とほとんど変わらない子もいた。


「あたしらの相手なんて一年で充分ってことか」

 歯軋りしながら声を上げる。憤りが含まれていた。

「いや、そうじゃない。油断するなよ。舐めてかかったら一気にやられる。下手すれば一クォーターよりも厄介だ」

 何となく戸倉の意図を察して、メンバーの気持ちを引き締めさせる。


「ディフェンスをしっかりやること。足を動かせ。常に反応できるように準備しろ。誰かが抜かれてもすぐにカバーリング。あの面子相手に守り切ってみせろ。芽衣、あの子のマークはお前に任せる。やれるか?」

「言われなくても」

 身長差などを考えれば冬美につかせるのが適任だが、マークさせるのは芽衣にした。芽衣にとっても勉強になる。

「あの子は手強いぞ。やれるか」

「知ってる。でも勝つのは私」

 表情は変わらないが静かに闘志を燃やしている。クールに振る舞っているがやはり負けず嫌いだ。


 メンバーがコートに入っていくと、果林が芽衣に話しかけてきた。

「やっと当たることができたね。君のことは知っていたよ。戦ってみたいと思ってたけど機会がなかったもんね」

 二人の間に独特の空気が流れている。お互いに一方的に知っている関係。ミニバスもトーナメントによっては当たることができない。選抜も事情もあって入れなかったがようやく対戦できるのだ。


 波乱の第二クォーターが始まろうとしていた。


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