第4話 ホット・ドッグ

 先日古本屋で買ったレイモン・オリベェ著「フランス食卓史」を読むにつれ、私は三流ガストロノーム(食通)なのだろうと気づきました。健啖家と呼ばれるほど古今東西あれこれの食べ物に食指を伸ばし、むしゃむしゃと口に運ぶほど食欲はありませんし、それほどは興味がありません。というよりも、誰もが美味いと言うものが、本当に美味いのかと立ち止まることがしばしばあり、困ったものです。さらに、誰もが褒めちぎる有名店に行っても、その「褒めちぎる」理由が分からないことも多々あります。ましてや、行列に並んでまで食べたいと思ったことが生まれてこの方一度もありません。行列に並んでまである食にたどり着くぐらいなら、さっさと家に帰り、チキンラーメンを丼に入れお湯を差しフタをして、2分35秒という絶妙なタイミングでフタを開けてずるずる啜る方が良いと思っています。予約がなかなかとれぬ名店というのがあるらしいのですが、それを珍重する感覚も一切ありません。というか、何故珍重するのかが本音のところで分からないので、行かなくても良いではないかと思てしまいます。「稚蟹やシラス鰻が激減して高騰化だ!」とテレビで叫んでいると「じゃあ当分食べなくても良いじゃないか」と思いますし、「小麦粉が高騰し関連商品が軒並み価格上昇だ!」とテレビで叫んでいると「じゃあ米を食べれば良いじゃないか」とも思ってしまいます。

 第三者からすれば、私の味覚が我儘だとか発達していないと罵られても仕方がないはずです。とはいえ、食は大好きで、私なりに食通だとは思っています。威張って言うのではなく、こっそりと言っていますのでよろしくお願いします。

 つまり、悲しき食通という感じなのだろう、いやそうに違いないと思っているとこころです。悲しき食通が夢想している話を綴っているのだと今さらながら気がついており、フランス人のオリベェ氏に敬意を払い、少し気取って「ガストロノーム(食通)」という言葉を使い、タイトルを「悲しきガストロノームの夢想」とさせていただいています。

 このタイトルに、私が好きなレヴィ=ストロースとルソーという隠し味も入れさせてもらっており、気の利いた香辛料だと思ってもらえればありがたいです。

 で、「ホット・ドッグ」が今回のテーマです。

 L.A.在住時、ドジャース・スタジアムやウェスト・ハリウッドのご近所にあった有名ホット・ドッグ店、ニューヨークの露店など、アメリカのあちらこちらでホット・ドッグを食べ散らかしましたが、どうも納得せぬまま数年の駐在員生活を終えて帰国しました。別にホット・ドッグを食べ歩くためにL.A.在住だったわけではないのですが、ホット・ドッグの本場のアメリカで美味いと唸るようなのには出会えなかったのは事実です。ドイツ各地の駅ではカリー・ブルストなるカレー粉をまぶしたソーセージをパンに挟んだのが流行っていたので、ケルンやらミュンヘンやらで食べましたが、「まぁ、こんなもんかいな」的でした。不味くはありませんが、美味くもない感じでした。

 頭のどこかに私が理想とするホット・ドッグがあるのですが、家で何度も作っては、まだその理想にはかけ離れています。少なくとも関西風のカレー味の炒めキャベツは必須なのですが、これもなかなか理想にたどりつけませんし、ソーセージの種類や焼き加減(茹でたのは嫌いなのです)、ソーセージをはさむパンの種類や焼き加減(パンの表面が薄っすら焼けた感じが良い)……。

 これから何年も、理想のホット・ドッグを追い求め、調理しては「違うなぁ」とため息をつくのだろうと思っています。

 ここにも、悲しきガストロノームの夢想が寝転がっているようです。中嶋雷太

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