第3話 中華粥

 私は、食の専門家でも食の記録家でもありませんし、テレビなどで紹介されたお店で行列をしてまで食べたいとも思ったことがありませんから、店の名前をわざわざ覚えようとは、これっぽっちも考えたこともありません。

 ただ、心の底から本当に美味しいものに出会ったら、その場所には目を瞑っても辿り着く自信があります。

 さて、今回は中華粥。

 今のところ第一位は、十年ほど前に香港で食べた中華粥です。

 その前夜、紹興酒を呑みながら上海蟹やら鴨の舌やらを堪能し、翌朝目が覚めると二日酔い気味で、しかも前夜の中華三昧では炭水化物をほとんど食していなかったので、胃の腑がキューッと鳴いていました。食欲があるのか無いのか定かでない朝ほど、頼りないものはありません。

 とりあえず、ベッドの枕元のミネラル・ウォーターをふた口ほど飲み、着替えてホテルを出ました。

 何かを食べたいけれど、何を食べたいのか分からない朝の散歩。

 季節は10月。

 日本ならパーカーを羽織るところですが、香港は朝から蒸し暑く、Tシャツに汗がジワリと滲んでいました。さて、どうしたものかと、店の看板などをチェックし歩いていたところ、ありましたね。中華粥のお店が。中を覗くと、お客さんがハーフー言いながら、中華粥に黙々と立ち向かっていました。その店の名前はや、何の中華粥を食べたのかは、実は記憶には残っていませんが、「美味い、美味い」と食したこと、そして店の情景は覚えています。もちろん、その絶妙な味わいは、私の味蕾にしっかり刻み込まれました。

 あれから十数年。

 東京でもたまに中華粥を食べていましたが、どれもこれも何かが足りず、いつの間にか美味い中華粥を諦めていました。ところが、知人が教えてくれた横浜中華街のあるお店に行ったところ、我が人生第二位となる中華粥に出逢いました。海鮮だったかの中華粥で、余計な調理が加えられていない、とてもシンプルかつ滋味深い味わいの中華粥でした。自分で料理を作るのが大好きな私ですが、中華粥には手を出さないようにしています。美味い中華粥とは、お店の雰囲気、そして長年の調理テクニックが必須に違いないからです。

 とにかく、いつでも美味い中華粥が食べたいものです。中嶋雷太


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