第5話
魔女の呪いのとおり、私はずっと彼女のそばにいた。
あの日のように触れ合うことは、その後一度もなかったけれど、卒業までの残り三年間も、そのあと就職してからの五年間も、私はずっと琉海のそばにいた。
学生時代ほど頻繁ではないものの、仕事の合間をぬって会い、一緒に食事をしたり、歌をうたったりした。
私に恋人ができることはなかった。ずっと、琉海だけを好きだったから。
琉海に新しい恋人ができるたび、辛くなった私は、彼女から離れようとした。自分からは連絡をしなかったり、向こうから連絡が来ても、意図的に時間を開けてから返答をした。
それでも琉海はめげることなく私に連絡をしてきては、次に会う約束をしっかり取り付けてくる。はっきりと誘われれば断れない私は、会ってしまえばまた琉海のペースに持っていかれる。
二人で過ごすことは本当に楽しくて、私にとってはそれだけで十分だった。
だけどいつまでも、そうしているわけにもいかなかった。
やがて、そのときは訪れた。私たちが二十七歳になった夏のことだ。
「結婚することになったんだ」
琉海は恥ずかしそうにちょっとだけ下を向いて、そう報告する。どこかで見たことのあるような光景だった。
左手の薬指には大きなダイヤのついた婚約指輪があって、ああ、幸せになるのだな、なんてことを思った。
その報告を聞いても、思っていたよりもショックを受けていない自分がいた。
琉海の旦那さんは、今まで琉海が付き合ってきた人とは少し違うタイプで、ちょっと変わった人のようだったけど、この人ならきっと琉海を幸せにしてくれるだろうと私は感じた。
実のところを言えば、私はすっかり疲れ切っていた。琉海のことを好きでい続けることも、報われない想いに、呪いのような願いに縛られ続けることももう限界だったのだ。
琉海が結婚した半年後に、私も結婚した。
適当な結婚相談所に入会して、適当なお見合いを何度か繰り返して。
女性の恋人を持とうとは、もう思えなかった。
長い間、琉海だけを愛し過ぎていたせいで、私は琉海以外の女性を好きになることができなかったのだ。
だけど、一人きりでこの先の人生を生きていけるほどの勇気も持てなかった。
私はあまりにも疲れ切っていた。
男の人のことを恋愛的に好きになることはできなかったけれど、友人のような気持ちで共に生きることはできるのではないかと思ったから、似たような淡白そうな男性を選んだ。
彼は私のことをとても大切にしてくれた。その優しさに触れながら、私も家族として少しずつ、彼のことを大事に思うようになっていった。
琉海は私の結婚を祝ってくれた。
私の報告を聞いて、『本当によかった』と嬉しそうにしていたのを覚えている。
そして琉海は言った。
「要。ずっと友達でいてね。結婚しても、ずっと仲良くしてね」
だけど、魔女の呪いは、もう私には効かなかった。
結婚しても、自分に夫ができても、私はまだずっと琉海のことが好きだった。
琉海と旦那さんの仲睦まじい話など、聞きたくもなかった。
琉海に会えば心を乱されるから、私は家庭を理由に琉海からの誘いを断り、夫の影に隠れるようにして琉海から逃げた。
琉海は私の思いになどまったく気づかない様子で、めげずに何度も私を追いかけてきてくれたけど、あるときその連絡がぱたりと止んだ。
心配になって今度は、私のほうから連絡をとろうとしたけれど、そのときにはもう、琉海と連絡を取る手段はなくなっていた。
琉海の電話番号や連絡先なにもかも、気づけば無効なものになっていた。
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