あらゆる対策を積んで魔王との決戦に挑んだら可愛い魔王様がブチギレました。

タカ 536号機

魔王城本土決戦(色々な意味で)


「……でかいな」


 俺は目の前にそびえる魔王城を見ながら呟く。そして震える足を手で叩き気合いを入れ直す。

 ここに来るまでの道のりは決して簡単なもなじゃなかった。でも、だからこそこんなところで怖じ気づいてはいけない。

 俺はゆっくりと息を吐き出すと、黒くおどろおどろしい装飾の施された俺の身長の15倍ほどはあろうかという扉に手をかけ_。


 ドオォォォォンッッッ!!


「かっか、騒がしのう。久しぶりの来訪者と思うて茶でも準備してやろかと思ったが……ぬしは余程血の気が盛んらしい」

「……まぁな」


 勢いよくこじ開けた。そして魔王はそんな俺を見て嬉しそうに笑っている。恐らく本当に久しぶりの来訪者で嬉しかったのだろう。

 頭の両側から生えた角も嬉しそうにピョコピョコと揺れていた。


「ここに来たということは我を倒しに来たと見て間違いはなさそうだが……しっかし、その仮面はなんじゃ? 戦う時に邪魔じゃろうから今のうちにとっておいた方がいいと思うが……」


 しばらく俺のことをジロジロと見ていた魔王は白く長い髪を揺らしながら、おもむろにそんなことを言う。

 しかし、それに対する俺の答えは決まりきっている。


「そんなこと気にせず早速始めよう」

「カカッ! 気に入ったぞ、その態度っ。久々に全力で楽しませてもらうとしよう」


 魔王は俺の言葉に大きく笑みをこぼし、目を見開くと今まで戦ってきたどの相手よりも黒く重い魔力をその身へと纏っていく。


「……強いな」

「アッハッハ。おかしなことを言う奴じゃなぁ! 我は魔王、弱いわけがないじゃろう?」


 しかし、そんなことを言いながらも「強い」と言われたことで上機嫌な魔王。……まったく、全然変わってないな。単純だ。


「まぁ、そんなことは関係ない。俺に負けはない」

「ふーむ。……大言壮語もその辺にしておいた方がよいぞ? 負けた時に言い訳が立たなくなるからのぅっっっ!!!!」


 しかし、流石に魔王としてのプライドはあるらしく俺の言葉に怒ると身に纏っていた魔力を噴射し、それを氷の矢へと変え俺に攻撃を繰り出してくる。

 いよいよ、開始というわけだ。


「不可避の攻撃……食らうがいい」


 俺の元へと迫る氷の矢を見ながら得意げに笑う魔王。そういうことなら……。


「避ける必要はない」


 俺も笑っておくとしよう。


「はぁ? なにを言って_!?」


 氷の矢が俺の元へと到達した次の瞬間……氷の矢は全て消え失せた。そして魔王は酷く驚いたように目を見開く。

 しかし、流石はそこは魔王。一瞬慌てた様子を見せたものの次の瞬間には瞬時に切り替え、俺の元へと次なる魔法を繰り出してくる。


 すると俺の周りに黒い煙が渦巻いていく。


「アハハッ、それは身体能力の低下じゃ。もう、勝てん_」

「ふんっ」

「っっ!?」


 しかし、俺は今度も慌てることなくその黒い煙を一息で掻き消すと次の瞬間には魔王の背中へと回り込む。


「くっ」

「……流石に無理……か」


 しかし、それは魔王に素早く対処されてしまい一時引き下がる。するとそんな俺を見て魔王は不思議に思ったのか、


ぬし……我の魔法の完璧に防いでおるのぅ。なにかトリックでもあるのか?」


 そんなことをどっ直球で尋ねてきた。相変わらず大胆というかなんというか。しかし、聞かれたなら答えてやるとしよう。


「別に……ただ氷魔法の無効とデバフ無効を持っているだけだ」

「なっ……そんな馬鹿なっ! その2つを持てるものなどいるはずがなかろうっ」


 しかし、魔王はそれを信じることなく俺の頭上へと巨大な氷の氷柱を出現させると落とさせた。


「……意味ないって伝えたつもりだったんだけどな」

「そ、そんな」


 しかし今度も俺に当たることもなく全て消え失せてしまう。そして魔王も俺が嘘を言ってわけではないことに気がついたのか地面へとへたり込み足を震わせる。


「そ、そんなのズルイよぉ。勝てるわけないじゃんっっっ」


 そして次の瞬間にはわんわん泣きだしてしまった。……これマジか?


「ズルイっ。というか我が使う魔法なんて教えたことないのに……そんなのっ。そんなのって。とにかくズルイっ」

「……そんなこと言われてもなぁ」


 泣きわめく魔王に俺はどうしていいのか戸惑う。

 しかしやがて魔王も今自分がどのような立場に置かれているのか分かってきたらしく、段々と声に落ち着きを取り戻していく。

 そして俺は泣き止みはしたものの棒立ちになってしまっている魔王の元へと音もなく近寄る。


「……俺の勝ちってことでいいんだな?」

「そういうことになるのぅ……。我の負けじゃ……好きにするがよい」


 魔力以外での近接戦では俺に絶対に勝てないと先程の対面から判断したのか、魔王は俺の言葉に対し薄く笑うと震えながらもみずらの首を此方へと差し出してきた。


「って、ことなら早速……」

「くっ____っ……!!!? へっ? はぁぁぁ!?」


 俺は震える魔王の首を切り落とすことはせず、その体を抱きしめる。


「な、なにをするっ!?」


 魔王としても全くの予想外だったのか戸惑いの声を耳元で上げる。しかし、俺はその問いかけに答えることなく黙ってその体を抱きしめ続ける。

 あぁ……いつ以来だろうか。


「お、おいっ、ぬし! 答えんかっ。というか離せっ。離すんじゃ」


 しかし、魔王は暴れて俺のことを振り解こうとする。……好きにしていいって言ったのコイツのはずなんだが?

 まぁいい。そろそろ教えるとしよう。


「元気そうで良かったよ。エリ」

「我の名前!? き、貴様なぜその名を知っておるっ」


 まだ混乱していて分かっていないらしい魔王……いや、エリに俺はため息をつくと抱きしめるのをやめて離れる。

 離したくなかったんだがな……しょうがない。


「これで分かるか?」

「っ………っっ!!!!!!? ぬ、ぬしっ、いやハイドか!?」


 俺がつけていた仮面を外すとエリは驚愕の表情を浮かべる。しかし、そんなことは関係ない。


「約束……果たしに来たぞ」


 俺はただ一言伝えたくてこの場に来たのだから。


「まさかあんな約束を覚えて……しかも、これほどまでに修行を積んで……一体どうして」

「なぁ、エリ?」


 まだ混乱が止まない様子のエリの姿を堪能しつつも俺は意地悪く笑う。


「結婚してくれるんだろ?」

「なっっっっ、そ、そんなのガキの頃のたわごとじゃろう!?」


 そう、俺とエリは昔にある約束を結んでいる。

 元々ただの農家の息子でしかなかった俺は小さい頃、エリと遊んでいた。幼いながらも俺はエリに恋心を抱き告白をする。

 しかし、次の瞬間にエリから自分は魔王の娘であることと次の魔王になるということが告げらた。


 行かないでと叫んだ俺に悲しそうなエリが残した言葉は「ただの農家の子であるハイドを巻き込むわけにはいかん。それでもというなら……我を倒しに来い。そうしたら……結婚でもなんでもしてやる」であった。


 今考えればエリは俺を遠ざける為にあんなことを言ったのだと分かる。なにしろ、魔王の強さは異常でただの農家の息子では到底倒せない存在だからだ。

 恐らくエリは弱い人間の俺が一緒にいることで傷つくことを恐れたのだ。


 それでも俺は諦めることなく修行を始め、ようやくここまで来た。


「約束は約束だろ? エリは約束破るような魔王なのか?」

「うっうぅ……だ、だかしかしじゃなっ、我なんかと結婚してしまえばハイドは人間からうとまれ戻ることはできない。事実上、人間界からの追放となってしまうのじゃぞ!?」


 目の前に立つエリは不安そうに目を揺らしながらそんなことを言う。……まだ、分かって貰えてないらしい。


「大体、それほどの力があれば引き手あまたじゃっ! 人間の女どもの中にハイドにふさわしいものが___ムグツ!?」


 まだごちゃごちゃとなにかを言うエリの俺は強引に口づけして黙らせる。


「っ……!? なっ、なっ、なっ、なにするんじゃ〜〜〜!! せ、接吻せっぷんなど。しかも我の初めてを……」

「大丈夫、俺も初だ」

「そ、そう言う問題じゃないっ。とにかく_ひゃい!?」


 まだなにかごちゃごちゃと言おうとするエリの手を俺は掴むとエリに目を合わせ迷うことなく告げる。


「俺はエリさえいればいい。それなら……結婚してくれるか?」

「し、しかし」

「なぁ、エリ。お前自身はどう思っているんだ? 俺のことは嫌いなのか?」

「そ、そういうわけじゃ___」


 俺はエリの反論を許すことなく言葉を続け用意していた指輪を取り出す。しかし、それは宝石などが装飾された普通の指輪ではなく草の葉で作られた安物だ。


「そ、それは我がハイドにやったもの。まだ、持っておったのか!?」


 しかし、俺にとっては何よりも価値があるものだ。


「なぁ、エリ。俺のことが好きじゃないならそれでもいい。でも、好きなら結婚してくれないかっ。俺のことなんて心配しなくていい。俺はこんなにも強くなったし、エリ以外いらないんだ、だからっ___」


 と、そこまで俺が言いかけたところでエリが俺が握っていた指輪を手に取るとおもむろに左手の薬指へとつけた。


「や、約束じゃしなっ」

「……」

「なっ、なぜまた抱きしめるのじゃっ!? さっきもう、抱きしめたじゃろ? おいっ、なにか言わんかっ」


しかし、そう言いながらも俺を全く離そうとしないエリを俺は愛おしく思いながらしばらく抱きしめ続けるのだった。

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