第11話
「隆一、こんなとこで何やってんだよ?」
「いや、それは俺のセリフだよ。それに、鮎川さんが何でここに?」
隆一は不可思議な面持ちで俺を見た。
「彼女は俺たちの部活に入ってくれるんだ」
なんで?って動機を聞いてくるなよ、隆一。
「え、なんで?」
「そ、それはだな……」
「私も映画が好きだから。本当は、読書部に入ろうと思ったんだけどね。でも、部員が多かったのとグループが既に出来て私が入る余地がなかったんだ。そしたら、健二が部活に誘ってくれてね」
こいつ、即興で今の台詞が考えたのか。それとも、本当に読書部に入ろうとしたのか。いや、夏葉は転校初日に偽カップルを頼む代わりに俺たちの部活に入ってくれるって言ったんだから読書部に入部希望ってのは嘘だし映画だってあんまり興味無さそうだし、きっと。そうなると、隆一は映画好きが入部してくれるって舞い上がってしつこく映画について聞いてくるぞ。
「え!?鮎川さん、入部してくれんの嬉しいよ。それに、いま鮎川さん健二って呼んだよね」
隆一は嬉々した声色で言った。それと、俺と夏葉の関係性に少し困惑していたため映画については聞いてこなかった。
「ほら、うちのクラスに健二以外に相沢って名前の子いるでしょ。えーっと、相沢満くんだ。彼とは挨拶するぐらいだから相沢君って呼んでて、だから健二って必然と呼んじゃうんだよ」
「なるほどね」
隆一は疑問が払拭された顔になった。
「あと隆一、もれなくこのおまけもついてくる」
俺は左にいる荒川を手のひら全体で指し示し言った。
「私は参加賞で貰える景品じゃないですから」
「これ誰?」
隆一は目を細めて首を傾げて言った。
「これ呼ばわりするな、リス猿」
荒川は隆一に牙を剥いて隆一の顔を馬鹿にした。
「俺、そんな可愛いかな」
隆一は照れた顔をして頭を掻いた。
「え、褒めたつもりないんですけど……」
荒川は隆一の意外な反応に若干引いた顔をしている。
「鈴音、先輩にたいして失礼よ。リスならいいと思うけど猿はどちらかと言うと健二の方じゃない」
「隆一がリスで俺が猿で2人合わせてリス猿でーすじゃねーんだよ。どっかの売れない漫才師じゃあるまいし」
俺は無意識に夏葉の胸にツッコミを入れてた。
「……」
夏葉は何も言わず頬を赤らませて俺の頭を力強く叩いた。
「うわぁ、先輩サイテー」
荒川は軽蔑の目で俺を見た。
「こんなつもりじゃなかったんだ」
「犯人はみんなそう言うんですよ」
夏葉はすぐ冷静さを取り戻して意識的にやってないのは分かったから大丈夫と言って階段を上がった。
「あーあ、健二怒らせちゃった。洋太郎によくツッコミする癖でしたんだろ」
隆一は俺の肩に手を回してニヤッと笑って言った。
「夏葉先輩にちゃんと謝ってください。私とリス先輩は奥の方の階段から行きますので。早く追ってあげてください」
「リス先輩っていい呼び方だな」
隆一はまたボケをボケで返した。それに対して、荒川は再度引いてる。
* * *
俺は階段を駆け上がって夏葉に追いついた。
「ごめん、悪気は本当になかったんだ。いつもの癖で男にツッコミを入れてしまう様にやってしまったんだ」
「それはわかるわ。でも、あなたは私に気を遣って女性と接するというより男性と接する様に少し意識してるんじゃない」
3階の廊下は人っ子誰もいなかったから夏葉は声を張って悲しげな目を俺に向けた。
「いや、そんなことはない。でも、夏葉は恋愛対象が男じゃなく女だから自分のことを男と思っているんじゃないかと感じて……」
「……私は自分の性別は女性と認識してる。それに、私は同性愛者じゃない」
「え!?」
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