第10話

 「健二、それにしても遅いな」


 洋太郎が漫画を読みながら隆一に言った。


 「俺、ちょっと校舎内見てくるよ」


 「あぁ、頼むよ」


 隆一は机に置いてある自分のスマホをポケットに入れて出て行った。


 「あれ、隆一どこ行くんだ?」


 隆一と入れ替わりで1年の三島義弘みしまよしひろと3年の加藤浩昌かとうひろまさが教室を開けて入ってこようとする。


 「加藤先輩、健二まだ来てないんで探しに行こうと」


 「そうか、じゃあまた後で」


 隆一は加藤に軽い会釈をした。


 「先輩、お疲れ様です」


 1年の三島が隆一に深く頭を下げた。


 「義弘、お疲れ」

 

 隆一は三島に手を振って健二を探しに行った。


 「加藤先輩と義弘、お疲れっす」


 洋太郎は本を置いて2人に挨拶した。


 「洋太郎、俺と義弘で部活勧誘してきたがみんなそっぽ向いてダメだな」


 「そうっすね。今の時代、映画好きは多いかもしれないが俺らぐらいの年齢で映画にしか興味ない奴らは少ないと思いますよ。それに、俺らの部活はこれといった活動目的がないですからね。少しでも映画に興味ある奴らは映画の撮影もするしっかりとした活動目的があってやりがいのある映像研究会のほうに行くと思いますよ」



 「まぁ、そうだな」


 三島は浮かない表情で言った



 「やっぱ、廃部になっちゃうんですか?俺まだ1年なのにこの部活なくなる嫌ですよ」


 三島は洋太郎と加藤に声を張って言った。


 「俺もこの部を存続したいけど後2人にその上女子1人がいないとダメなら厳しいな」


 洋太郎は天井を眺めて軽快な口調で話す。


 「おい、洋太郎。そんな言い方ないだろ」


 「でも、健二なら誰か連れてくると少し信じてる。あいつがこの部活を作ったんだし、ここがあいつにとって唯一心を安らげる場所だから」


 「って少しなんかい」


 加藤が洋太郎に軽いツッコミを入れた。


 「絶対とは言えないでしょ、廃部したら責任とれないし」


 「やっぱり、廃部するんですか?」


 三島があたふたしながらまた声を張って言った。


 「お前、さっきからテンパリすぎだよ」


 加藤は三島の頭を叩くツッコミをした。


  「痛いっすよ、加藤先輩」


 三島は頭を摩って口を尖らせ言った。


  「悪りぃ、悪りぃ」


   * * *


俺と夏葉と荒川はお互いの秘密を共有した後、部室へ向かうため校舎に入り1階の廊下を歩き始めた。


 「荒川は何であかねを知ってんだ?」


 「何でって、森田先輩は1年の男子から大人気ですよ。さらに、森田先輩の彼氏の神木先輩は1年の女子に大人気ですね。神木先輩は相沢先輩より遥かにイケメンだし運動神経抜群ですよね」


 「今、神木と俺のステータスを比べる必要あったか」

 

 俺は荒川の毒づいたセリフに疑問を呈した。


 「まぁ、神木くんと健二じゃねぇ、天地の差よ」

 

 「そうですね。ところで、2人っていつから偽カップルを演じてるんですか?」


 荒川は俺たちの顔を伺ってから声のトーンを下げて言った。


 「もう偽カップルではあるけど、まぁ、今日から数えて約2週間後ぐらい経ってから私達が付き合っているってことを私が周囲の人に公言するわ」


 「自ら公言するんですか?」


 「まぁ、一応ね。でも公言する前に、彼の部活に入部して行動を共にしていたら必然と私と健二が付き合っているって噂が広がるに決まっている。クラスメイトの誰かが私に健二と交際してるか訊ねられたら「そうだよ」と答えるつもりよ。さすがに、今日から1週間以上経たずにば訊ねらても言わないけどね」


 「なるほど。でも、夏葉先輩と仮に嘘で付き合っていたら相沢先輩は森田先輩と付き合えるか分からないけどその可能性は遠くなってしまいますね。まぁ、現在進行形で森田先輩と神木先輩は付き合ってるから元々可能性はゼロか」


 荒川は俺のことを心配してくれて言ってくれてると感心した矢先、毒づいた致命的な言葉を言われ心が折れた。


 「いや、そんなことないわ。私と健二が交際してるのを知った森田さんは健二のことを関心または意識をする可能性は否めないわよ」


 夏葉は荒川の目を見て俺を指差して言った。


 「よく言った夏葉。荒川、まぁそういうことだ。男女のことについて君はもっと勉強するんだな」


 俺は荒川を馬鹿にしたように鼻で笑った。


 「めっちゃ腹立つな今の顔」


 荒川はムスッとした表情を浮かべて言った。


 「さっきから思ってたんだけど荒川さんと健二ってお似合いよね」


 夏葉は屈託のない笑顔で言った。


 「え?」


 俺は夏葉の意外な一言に目を大きく見開いた。


 「夏葉先輩、勘弁してくださいよ。冗談でも笑えません」


 荒川は冷ややかな目で俺を見ながらかを感情の全くこもってない棒読みで言った。


 「おい、俺を変質者を見る目でみるな」

 

 「私にとって不名誉なことでしたので」


 「おーい、健二待って!」


 階段を上がって4階にある部室に行こうとした瞬間、1階の廊下の奥から手を振った隆一がいた。


 「誰ですか、あの人?」


 「俺の友達であり映画語り部の部員でもある」


 「そう言えばあの人の名前も荒川だよね」


 「そう、そう。荒川隆一って言うんだ」


 「え、そうなんですか」


 「じゃあ、荒川が2人になるんだな」


 俺は隆一と荒川を交互に見て言った。


 「ってことは、荒川さんと荒川くんって呼べばいいのね?」


 夏葉は首を傾げて言った。


 「鮎川先輩、それじゃあ紛らわしくないですか。私のこと鈴音って呼んでくださいよ」


 荒川は夏葉に上目遣いで名前を呼んで欲しそうな顔をする。


 「え……でも……分かったわ。す、すず、鈴音」

 

 夏葉は最初抵抗していたが恥ずかしがりながらも荒川の下の名前を言葉を詰まらせながら呼んだ。


 「嬉しいです、鮎川先輩!」


 荒川はにっこり微笑んで鮎川に言った。


 「じゃあ、俺も下の名前で呼ぼ……」


 冗談のつもりで言おとしたら荒川が俺の言葉を遮って


 「ダメに決まってんだろ、タコ」


 今までに聞いたことのないドスの利いた声で言った。

 

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