第8話
ポケットの中に入ってるスマホが鳴った。
「あ、やべぇ」
スマホに夏葉からのメッセージがきた。
そこには「今、どこ?」と書いてあった。このメッセージからでもご立腹なのが伝わってきた。すぐ来てって言われてたのについつい荒川と立ち話をしてしまった。
「荒川、これ俺の連絡先だから。じゃあ、また」
俺はノートの切れ端をちぎってそこに電話番号を書いて荒川に渡した。
「え、ちょっと待ってよ……」
俺は急いで一階に降りて右を曲がり真っ直ぐ進み校舎を抜けると体育館に行く通路がありそこから体育館の裏口へと向かった。
体育館裏に来ると夏葉がベンチに座って本を読んでいた。
待ちぼうけして退屈そうな顔していた。
「ごめん、長く待たせて」
「なんかあったのかと思ったわよ。大丈夫?」
手に持っている本をスクールバッグに入れてベンチから立ち上がった。
「俺は大丈夫だけど……怒ってないの?」
「普通、行くのが遅くなるなら一本連絡を入れるのが常識でしょ」
夏葉の軽い説教にぐぅの音も出なかった。
「本当にすみませんせんでした。おっしゃるとおりです」
「はっきり言って私怒ってないわよ。でも、示しとして一言言っただけ。とりあえずベンチに座りなよ」
夏葉の顔つきが和らぎベンチに置いてた荷物とスクールバックを膝の上に乗せて俺に空いたスペースに座ることを勧めた。
俺は空いたスペースに腰を下ろした。
「それで、話って?」
「部活が廃部しない条件が部員7名にその内の1人が女子が入部することだったじゃない。でも、それが変わったって言いにきたの」
「変わった?何で夏葉が知ってんだ?」
俺は声を張って疑問を呈した。
「さっき、職員室に行く用事があってそこで教頭と校長があなた達の部活について話してたの。部活を存続する条件は部員8人に女子部員2人加入すること。それと、期限は4日後だって」
「まじか。にしても、なんで条件は変わったんだ?」
「きっと、先生たちはあなた達の部活を失くしたいんじゃないの。たいした功績があるわけじゃないし人気もないからよ。明確な活動目的もよく分からないし」
淡々とキツいことを言う夏葉の言葉が身体に容赦なくズバズバと剣が刺さった様に痛い
。
「おい、お前言い過ぎだぞ」
「あ、ごめん、ごめん」
夏葉いたずらな笑みを浮かべて言った。
「それじゃあ、あと1人足りないじゃん」
俺はガクッと頭が下に落ちた。
「あと2人でしょ?」
夏葉が不思議そうに俺を見て言った。
「あぁ、そういえば言ってなかったな。1人、俺たちの部活に入ってくれる奴が見つかったんだ」
「いつ?」
夏葉は俺の方に前のめりになって訊ねた。
「さっき、ここに来る前に。それで遅くなったんだよ」
「なるほど。その人は女性、男性?あなたが誘ったの?」
すげー、質問攻めの嵐だな。
「1年の女子だよ。いや、彼女が入りたいって言ったんだよ」
具体的な理由は荒川の為に伏せといた。それに、荒川が入りたい動機を言うのはなによりも俺が恥ずかしいからだ。
「その1年の女の子、映画好きなの?」
「いや、そういうわけじゃないみたいだよ」
俺の顔つきから何かを察したのか夏葉はそれ以上何も訊ねかなった。
「あ、そう。まぁ、1人増えたならいいか。じゃあ、あと1人ね。女性2人ってのは条件を満たしたからあと1人は男性でも女性でも構わないということになるわね」
「でも、4日以内でもう1人探さないといけないんだろ。中々、厳しいものがあるな」
「まぁ、焦っても仕方ないわ。きっと、あなたに先生達はギリギリになったら教えるわよ。だから、4日以内に絶対みつけなきゃ。私もいろんな人に声かけるから、ね」
落ち込んでる俺の肩を夏葉は揺らして優しい言葉をかけた。
「お前、わりといい奴だな」
「わりとは余計だけど、私が同棲愛者なのを隠すために偽カップル演じてくれるんだからこんぐらい容易いことよ」
「部室に行くか」
「そうね」
カーンッという音が近くから高く鳴り響いた。誰かがこちらをみて顔を引っ込めたのがわかった。
「待って!」
夏葉は駆け足で音がする方へ走った。
「すみません。偽カップルの話なんて聞いてませんから」
「聞いてるじゃん、この地獄耳女」
「やめて、怪力女!」
「何ですって!」
「おい、夏葉やめろよ……って荒川じゃん。お前、何でここにいるんだよ」
「え?知り合い?」
夏葉は目を丸くして俺と荒川を交互にみて言った。
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