第6話

 オレは鮎川夏葉と偽カップルの話をされてから1週間経った。


  オレは携帯をポケットから取り出して鮎川に電話をかけた。


「……もしもし鮎川さん、相沢だけど……」


 オレは緊張が原因で出だしからぎこちない喋り方になった。


  「こんばんは、相沢くん。まさか、そっちから電話がかかってくるとは思わなかった」


  「ん?どゆこと?」


  「いや、何でもないわ。……私たち偽カップルだけどお互いの呼び方が苗字でしかも、くん・さんっておかしいわね」


  「そうかな?付き合ってる奴でもくん・さんで呼び合ってる奴らもいるぞ」


  「わたしは苗字じゃなくて下の名前で呼ぶ言い方を慣れといた方がいいと思うわ」


  「疑われるのを警戒してるのか?」


 「……手抜かりがないに越したことはないからね」


  彼女は一拍置いてから言った。


  「そうだな」


  それから、俺と鮎川は明日のことについて話していた。


  「じゃあ、明日は私が健二達の部活に入部。付き合っているって言うのは2週間後ぐらいが怪しまれないと思うわ。転校しててきてすぐ付き合うのは周囲が勘ぐると思うわ」


  「確かに、わかった。それじゃあ、また明日、おやすみ」


  「おやすみ、夏葉って言いなさい。さっき、名前を呼びあう事を心がけるって言ったでしょ」


  「……わかったよ。オレが名前を呼ぶまで切らないきだろ」


  オレはため息混じりに言う。


 「お、察しがいいわね」


  鮎川は朗らかな声で言った。


 「……夏、夏葉、おやすみ」


 額の汗が頬を伝い顎に流れてくる汗をグレイのパーカーの袖で拭いながら言った。


  「……健二、おやすみ」


 夏葉は凛とした声でオレの名前を呼んで電話を切った。


 そして、今日夏葉が俺たちの部活に入部する日が来た。


        *  *  *


「隆一、廃部は仕方ないよ。色んな奴勧誘したけどダメだったからな」


  洋太郎は落ち込んでいる隆一の肩を片手で優しく包み込む。


 「……そうだね。そういえば、健二遅くない?」


 「そういえばそうだな。もう少し経てばくるだろ」


 「もしかして、新しい部員を連れてくるのかも!」


 隆一は嬉々した声で言った。


 「あんま期待するなよ」


 洋太郎は椅子から立ち上がり窓越しから遠くを物悲しげにみて言った。


      * * *

 

 放課後、教室を出て部室に向かおうとしたと同時に、携帯に夏葉からのメッセージが届いた。


 そこには、「ごめん。大事な話があるから体育館裏に来て」と書かれていた。部室で合流する予定が変わり、体育館裏に行かなくてはならなくなった。

 

 俺は部室とは反対側の体育館裏に足どりを早める。一階に行くために階段を下ってると前から急いで階段を駆け上がっていくリボンの色柄が赤色からして一年の女子と肩がぶつかり階段から後ろに落ちかけようとした女子の手を力いっぱいに握り、足を踏ん張り自分の方へ強く引っ張った。


 俺は彼女を自分の方に引き寄せて階段から落ちるのを防ぐことが出来て安堵したのか、後方に体がよろめき段差に尻餅をついた。


  俺は、しょっぱい顔をして痛い尻を摩った。助けた一年の女子は何も言わず、俺のことをじっと見つめる。


「無事でよかったよ。怪我はない?」


 俺は床に座っている状態から上体を起こし言った。


「......あの、ありがとうございます。私は、大丈夫です。そちらも怪我はしてないですか?」


「あぁ、俺も大丈夫。じゃあ、俺はこれで…

…」


 俺はその場から立ち去ろうと階段を降りて彼女を横切って1階の中間の所に来た途端、急に彼女は勢いよく階段を下ってきて距離を詰めてきオレの顔を下から覗き込んだ。


「急にどうした、距離が近いな」


 オレは彼女の顔が近距離に寄ってきたため驚きのあまり後退りをした。


「やっぱりそうだ。先輩って毎日、校門で部活の勧誘してる人ですよね」


 彼女はマスコットキャラクターを見るようなにこやかな表情で言った。


「え?そうだけど。俺って有名なの、良い意味で?」

 

「有名ですね、悪い意味で」


 彼女はいたずらな笑みで言った。


「廃部の危機なんですよね。新しい部員は入りましたか?」


「1人は見つかったけど、もう1人足りないんだよね」


「そうなんですか。……じゃあ、私が入ります」


 彼女は少し難しい顔をしてから柔和な顔つきに戻り右手を少し上げて言った。

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