第5話

 「うん。私は前の高校で誰にも知られないように同級生の女性と密かに付き合っていたの。でも、付き合ってた彼女が私を陥れるために同性愛者のフリをして周囲に私が同性愛者だって言いふらしたのよ」


  彼女は俺の顔を遠い目で見ながら言った。


「なんで、そいつはそんなことしたんだよ」


 「男関係よ。私はその女の子の事が好きでが女性でもでることをその子に打ち明けて……私を好きな男がいてその人のことを好きだったのがその女の子で……」


 「妬まれ、恨まれ、罠にかけられたってこと?」


  鮎川は所々、言葉が詰まりながら喋っていたのをオレは途中で遮り言った。


 「簡単に言うと、そんなところ」


  「1つ疑問があるんだけど、裏切られたら普通人を信用できなくなるだろ、なんでオレにこのことを話したんだ?」


  「あなたと会って間もないのに、バカだよね。なんでかな、本当は慎重に物事を進めリスクを冒さない手段をとるつもりだったんだけど。率直に言って、君はあのクラスの中心にいるタイプでもないしかといって孤立してるわけではない。だから、あなたは中間または下に位置する。それに、とても酷いことを言うかもしれないけど、あなたと喋った時やあなたを見る周囲の目をみてあなたは女っ気や人望がないと思ったのは事実。だから、あなたと付き合っていても妬みをかうことはないと思ったの。それに、私が同性愛者だって拡散されたとしてもその発生源はあなただってすぐ分かるし、きっと周りはあなたの発言を鼻で笑うと推測するわ」

 

 彼女は随所に抑揚をつけて喋った。全てを言い切った後、バカをやらかした時のように額に手の小指球を当て顔が歪む。


 オレは彼女の顔をじっと見る。


 オレは洋太郎の言葉(精神的繋がり)を思い出した。彼女はオレにその何かを感じたのか……でも、会っても間もないのにそんなのがあるとは信じがたい。


 「にしても、涼しい顔してダメージのくるパンチをかますじゃん。でも、オレの方に男の嫉妬がきたらどうすんだよ」


  「それって私が美人ってとう回しに言ってる?でも、それは大丈夫。私の本当の性格を知れば清楚系を求めてる男たちは殆ど引くから」


  彼女は不気味な笑みを浮かべ言った。


 「美人だろ、どうみても。本当かよ」


  にしても、コイツはとてもずる賢い女だぜ。でも、何故だろう、オレは彼女に利用されると知っておきながら微かに助けたいと思ったのは正直に彼女が美人だからという理由も少なからずあったが、1番は同じ"匂い"を彼女に感じた気がしたからだ。それが、洋太郎の言う精神的繋がりなのかもしれない。

 

 「まぁ正直、オレは君のカミングアウトに驚きが隠せないし、これが上手く行くとは確信できない。けど、オレがフェイクカップルを演じれば部活に入ってくれるんだよな」


 「う、うん」


  彼女は俺の目を凝視して答えた。


 「わかった。でも、いつまでフェイク・カップルを演じればいいんだ?」


  「私が、あのクラスに馴染むまでの間だけ。その後は自然に別れれば周囲に怪しまれないだろうと思って」


  「別れて同じ部活にいたらおかしいだろ」


  「それまでに私がどうにかして部員を増やすから安心して。そうすれば私が辞めても部活は存続するでしょ」


  今のオレは彼女の人生の舵を握っている。彼女をじっと眺めながら起こりうるだろう色んな障壁を考えていたがもう小難しく物事を考える事をやめた。


  「わかった。もし女性が好きだって俺が発生源じゃなくバレるような行動したら責任はとらないからな。それと、それでも部員を増やす約束を守れよ」


  「……うん。でも、良かった。断られたどうしようって不安だったからさ」


  彼女はオレの答えを聞いて右腕をを空に向けてのばし左腕で右肘を押さえて顔が綻び何かに縛られていたものから解放されたような安堵感を感じているように見えた。


  「じゃあ、これ私のスマホの電話番号だから。これからのことはまた連絡するから」


  俺は電話番号が書かれたメモ帳の紙を渡され受け取った。

 

  「わかった」


  こうしてオレと彼女の奇妙な関係は始まった。

 

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