第4話

 俺は転校生の席を囲んでいる生徒達が消えたの見計らって椅子から立ち上がり、転校生の方へと足を進める。緊張からか尋常じゃないほどの汗をかく。タオルで何度も拭くが止まらない。


  転校生が座ってる席の目の前できたが開口一番なんて言えば良いか分からなくなった。


 「あのバカ何してんの?」


  彩音は洋太郎に話しかけ、オレの方見て指差している。


  「あの、何か用ですか?」


  あまりにも端麗な顔立ちでまじまじと転校生の顔を見てしまった。


  彼女は、オレの顔を不審者を見る目で眉間に皺を寄せ見た。


  「……チンパンジーの平均握力って300前後あるらしいんだ。だから、チンパンジーと腕相撲したら一瞬で人間の腕をへし折るだろうね」


 なんで?オレはチンパンジーのどうでもいい豆知識を話してしまったんだ。


  「へ?」


 転校生は頓狂な声を上げる。


  オレを見る周囲の目は点になっていた。みんな呆気にとられていた。


  沈黙の間ができ、転校生の凍りついてた表情から一変、穏やかな笑みを浮かべ笑った。


  「おい、鮎川さんが笑ってるぞ」


  笑いは周囲の奴らにも伝染した。中には腹を抱えて笑ってる奴もいた。オレは転校生と周りの反応に困惑したが洋太郎の方に視線に向けると洋太郎は親指を立てニカっと笑った。


  オレはその笑いの意図の意味を理解して小さな笑みを返した。


  この勢いでオレは転校生に部活のことを切り出した。


  「……急に変なこと言ってごめん。……これから、部活入る予定とかあるの?」


  転校生は周囲を見渡してから椅子から立ち上がり顔を突き出しオレの耳元で囁く。


  「放課後に2人きりで話をする時間を設けられる?」

 

  オレは突然の耳元の囁きに後ろに後退る。


  「……大丈夫だよ」


  「ありがとう。じゃあ、場所は……体育館裏でいい?」


  彼女は俺だけが聞こえるように顔を近づけて微かな声量で言った。


  オレは頷き話は終わり自分の席へ戻った。周囲の生徒はオレと転校生を不思議な眼差しで見る。


        * * *


  オレは言われた通り、授業が全て終わった後掃除をてきぱきと終わらせ、体育館裏まで走った。


  辺りを見渡したが彼女はまだ来ていないみたいだ。


  オレはこの場所に来るとあかねにと振られたことを思い出す。

 

 オレはベンチに座り、空を見上げ幼い頃を思い出した。中1の頃、洋太郎と隆一と昔の良き思い出に耽っていると彼女がこちらへ小走りでやってくる。


  「ごめん。先生に呼ばれちゃって……」


  彼女は申し訳なさそうに謝る。


  「いや、大丈夫だよ」


  彼女はベンチに1人分の空間を空けて右端に座った。


  「さっき職員室であなたの部活が廃部の危機に瀕してるって聞いたの。それで話なんだけど、単刀直入に言うわ。あなたの部活に入る代わりにあなたに私の彼氏を演じてほしいの」


  彼女は何かを決心した表情を浮かべて俺の顔をみて言った。


  「……えっ!?」


 オレは驚きから頓狂な声を上げる。


  「……いきなりでびっくりしたよね。私は恋愛対象が女性なの。……だから、私が女性が好きだってバレないように偽装カップルを演じてほしいの」


「君は女性が好きってこと?偽装カップル?」


 俺は情報量が多すぎて頭で整理するのが困難だった。

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