謎のゲートとスライム Episode.3

「…どこなんだここは」


ゴブリンから逃げるのに必死で、脇道をいくつも回った華衣は、絶賛迷子中だった。最初のゴブリンに会ったのをきっかけに、道中、数匹のゴブリンと出会った。そのゴブリン達を倒す内に、大分抵抗は薄れていた。ゴブリンの動きは、恐ろしいほど単調だった為、棍棒を振り上げ、奇声を上げながら向かってくるゴブリンの脳天に、思い切り棍棒を振り下ろすだけで簡単に倒せた。最初は見ていなかったが、絶命したゴブリンは、ドロップアイテムを残して、洞窟に吸収されるように消えたことが分かった。最初以来ドロップするのは魔石だけであり、棍棒は1つも出なかった。どうやら、レアドロップだったらしい。ゲームで言うビギナーズラックのようなものだろう。

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どれだけ歩いても例のゲートは一向に見つからず、疲れが出始めた頃、華衣は不思議な出逢いを遂げる。

華衣が少し息を切らし始めた時、すぐそこの曲がり角で、ゴブリンの奇声が聞こえてきた。しかし、それと一緒にゴブリンの奇声とは似ても似つかない、キュキュッという可愛らしい声が聞こえた。その声は、決して呑気な声ではなく、明らかに焦っているような声だった。角を曲がると、今まさに棍棒を振り上げ、何かに襲い掛かろうとしているゴブリンの後ろ姿があった。何に襲い掛かっているのかは、ゴブリンの身体で隠れて分からなかったが、とにかく、ゴブリンが襲おうとしている”何か”を助ける為に、棍棒でゴブリンの脳天を思い切り殴った。ゴブリンは力無く倒れ、魔石と薄汚れた布切れを残して、洞窟に吸収されていった。


「これ初めて見るなぁ。これもレアドロップ?」


「キュキュッ!」


布切れを拾い上げると同時に、先程の可愛らしい鳴き声が聞こえた。声がした方をばっと振り向くと、そこには、水色で、饅頭型のゲル状の、20cm程の半透明な生物がいた。


「…スライム?」


「キュッ!」


そのスライムは、心無しか嬉しそうに見えた。窮地を助けたのだから、当然なのかもしれない。


「かわいい〜♡」


その可愛らしいフォルムと鳴き声で、一瞬で緊張が溶けた。スライムにそっと触ると、冷たくてぷるぷるな感触が、掌全体に伝わった。


「うわ気持ち〜♡」


華衣は、しばらくそのスライムを撫で続けていた。スライムも嬉しそうに身体を揺らしていた。


【スライムをテイムしますか? はい/いいえ】


「ぬ゛お゛っ゛」


スライムを撫でていると、突然目の前に、文字が出てきた。


「ウィンドウっぽいなこれ」


ゲートとゴブリンのお陰で、非現実的なことに大分慣れてきていた華衣は、対して戸惑った様子は見せず、宙に浮いているウィンドウに手を伸ばした。その時に、伸ばした指が、「はい」という文字に当たった。


【スライムをテイムします。…成功しました。】


その途端、ウィンドウに書いてある内容が変わった。


【スライムに名前を付けてください。】


ウィンドウの内容の最後の段には、そう書いてあり、この文のすぐ下に、空欄があった。


「なまえぇぇ?…あー確かにあるわこんなの。うわどうしよー、名付けとか自信ねぇよー…」


華衣は小さいながらも悲鳴に近い声でそう言うと、腕を組み、天井を見上げてしばらく考えた。


(ライム…だと安直過ぎるか。じゃあラムとか?…いや、なんかしっくりこないな。メ◯モン?いや雰囲気が違うな。スラ…うーん微妙。イム…?なんか偉大な名前だな。スイ…なんか水の生き物っぽいな。えー…んー…あぁこれでいいな)


「この子は”アリー”にする」


【名前を登録しています…成功しました。個体名スライムの名前を、アリーに変更します。】


名前を登録しようとウィンドウに手を伸ばした時、ウィンドウの内容がそう変わった。


「あ言うだけで良いのね」


華衣は、スライム…アリーに向き直った。


「よし、アリー。なんかよく分からんが、お前は今日から私の使い魔?的なもの

になった。ということで、君に最初の指令を与える」


「キュッ!」


アリーが元気良く返事をする。


「良い返事だ。最初の指令は、私を帰り道まで案内することだ。渦巻いてるゲートまで私を連れて行くんだ。さあ行け」


なんとも雑で無茶な指令だが、アリーは「キュッ!」と鳴くと、華衣が歩いてきた方向へ、軽く跳ねながら進んでいった。


「アリーは跳ねるタイプのスライムなのね」

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