謎のゲートとスライム Episode.2
玄関に靴を取りに行こうとリビングへ降りると、妹が帰ってきていた。
「あ、華衣ちゃんただいま」
「華奈、帰ってたんだ」
妹の雪原華奈は、現在小学5年生のおませな女の子である。1人が好きな華衣と違って、華奈の周りにはいつもたくさんの友達がいる。小5ながら、華奈には華やかな美しさがあり、カリスマ性がある。勉強もでき、運動神経も良い、人当たりも勿論良い為、みんなから慕われている。華衣は、そんな妹から姉と呼ばれるのもむず痒い為、名前で呼ばせていた。
「華衣ちゃん珍しいね。夕食前に下に降りてくるなんて」
「あ、えー…っと…あー」
華衣は帰ってきた後は、基本部屋に引きこもっている。夕食前に降りてくるなんてことは殆ど無かった。
まさか、部屋にゲートが出たからそれを探索しに行くの〜なんて言える訳がない。
「あ〜…まあちょっと下に用があって?」
「ふ〜ん…まあいいや」
華奈は不思議そうな顔をしながら、TVに向き直った。華衣は心の中でほっと胸を撫で下ろすと、そそくさと玄関に行って自分の靴を取ると、華奈からは見えないよう、華奈の死角に靴を移動させながら早足で自室へ戻った。
「よし行こう」
既にゲートに慣れた華衣は片手に靴を持ってゲートへと飛び込んだ。さっきの場所へ戻ると、その場で靴を履いた。
「…なんか勇気いるな」
神妙な面持ちで、少しずつ奥へと歩いて行く。少し歩いた所で、分かれ道に当たっ
た。
「ヒョエッ」
まあまあの方向音痴である華衣にとって、分かれ道は中々の難敵であった。上を向き、腕を組みながら少し考え、よし、と一回首を軽く縦に振ると、左の道へと進んで行く。ちょくちょく見られる脇道をスルーし、一定間隔に壁に付けられている松明を眺めながら進んでいると、風に乗り、微かに音が聞こえた。華衣は思わず立ち止まり、後ろを振り返る。その音は鳴き声のように聞こえたからだった。
「スー…きーのせーいーかな?うん、気のせいだよな。うん」
そんなことは言っていたが、数々の異世界漫画を読み漁っていた華衣は、直感で生物の存在を感じ取っていた。靴を取りに行く前に見たあの影も、よくよく考えたら、炎が揺れ動いてできるようなものではなかった。
「いやーなんか起きそー…今のでフラグたったな、最悪だw…」
「ギャッ」
ぶつぶつと独り言を呟いていると、後ろの下の方から誰かの声が聞こえた。声というよりは鳴き声だった。華衣は硬直し、とんでもなくぎこちない動きで声のした方を振り返った。そこにいたのは、1m程の背丈をした、緑色の肌に、粗末な腰巻を巻き、木製の棍棒を持った、醜くも恐ろしい生物、ゴブリンだった。
「ヒョエッ」
どこから出たかも分からないような声を上げ、ゴブリンとは反対方向へ全速力で走った。ろくに運動もしていない人間の体力はものの数秒で切れ、すぐに息を切らし始め、喉と足が痛くなった。洞窟内は冷えていた為、喉は冷えて余計に痛かった。
「グギャギャッグギャーッ」
華衣がぜいぜい息を切らしている間、ゴブリンはスピードが落ちる様子もなく、一直線に華衣の元へ迫り、思い切り棍棒を振り下ろした。その攻撃を間一髪で躱すと、ヤケになってゴブリンから棍棒をひったくり、目を瞑りながら、ゴブリンがいる方向へめちゃくちゃに振り回した。
「ぎゃああああああああ」
「グギャアアアアアアア」
棍棒にゴブリンの身体が当たる感触がある。
華衣の叫び声と一緒にゴブリンも悲鳴を上げると、不意に、ゴブリンの悲鳴が聞こえなくなり、棍棒の感触も消えた。ゆっくりと目を開けると、さっきまでいたゴブリンはいなくなり、ゴブリンのいた場所には、代わりに、三角錐の底面同士を合わせたような形の、小さな綺麗な宝石が転がっていた。手に持っていた棍棒を地面に置き、その宝石をそっと持ち上げる。
「…魔石?みたいな?」
松明の炎の光に当てると、キラキラと光るその石は、ダイヤモンドのような、人
を魅了する美しさがあった。掌サイズの小さな魔石を上着のポケットに入れると、地面に置いた棍棒を持ち上げ、それを回しながら見つめた。
「…ドロップアイテム…てやつ…か…死体が無いのがせめてもの救いだな…」
襲ってきたとはいえ、生物を殺すのは誰だって抵抗はあるはずである。華衣は難しい顔をしながら、元来た道を戻った。
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